獣医師のドッグフード研究コラム
第5回:家庭内に潜む犬にとって危険な食べ物 パート1
こんにちは。獣医師の清水いと世です。
犬にとって危険な食べ物の話は、たくさんあります。
危険と言われている食べ物の多くは、その食べ物に含まれる成分の代謝の違いにより中毒症状が現れると考えられます。
人間と犬の代謝の違いから、私たち人間が食べても問題のない食べ物が犬にとっては危険となり、また同じ犬でも遺伝的な違いにより代謝が異なり危険性が増す場合もあります。
今回は、実際の犬の中毒の報告や研究により中毒を生じることが確認できた報告の多い食材を主にまとめています。
わんちゃんが誤って食べることのないよう、多くの飼い主様の心得になれば幸いです。ご存知の方も、さらなる周知にご協力ください。
タマネギ(ネギ属)
原因
原因の食材はタマネギだけではなく、Allium属(ネギ属)と言われており、ここには、タマネギ(Allium cepa)、ニンニク(Allium sativum)、ニラ(Allium tuberosum)、ワケギ(Allium fistulosum)などが含まれます。
ネギ属に含まれるチオスルフェイトなどが、赤血球の膜やヘモグロビン(赤血球の中にある酸素を運ぶ役割のあるタンパク質)を酸化して破壊するため、貧血になります。この中毒の原因となる成分は、辛みの強いタマネギに多く、揮発しにくいものもあるため、加熱調理しても毒性はなくなりません。
タマネギを刻んで調理すると、よりその成分が出てくるため、タマネギ入りスープの汁だけを与えたとしても、中毒を起こす可能性があります。
犬は15-30 g/kgのタマネギで貧血が生じると言われていますが、多く摂取していても貧血が生じない犬もいます。逆に、赤血球内に還元型グルタチオンやカリウムの高い犬種(秋田犬、柴犬、珍島犬)では、タマネギ摂取により貧血を起こしやすいことが知られています。
ちなみに、猫は、ヘモグロビンの構造上、酸化障害を起こしやすく、5 g/kgのタマネギで貧血が生じることがあります。
症状
タマネギを食べて1日から数日で症状が出ます。
嘔吐や下痢、腹痛、食欲不振、沈鬱が生じます。赤血球の酸化障害が進むと、赤血球が破壊され貧血になるため、歯茎や舌の色が悪くなり、ぐったりし、呼吸や心臓の動きが速くなります。
赤血球の酸化障害がひどく、赤血球の破壊も激しくなると、血管内で壊れた赤血球の色素が尿に排泄されるため、尿の色が暗赤色(血色素尿)になります。
治療
有効な解毒剤はありません。摂取2時間以内ならタマネギを吐かせるために、催吐の処置を行うことがあり、また、中毒を生じる成分を腸管内で吸着させるために活性炭を飲ませることもあります。酸化障害を少しでも抑えることを期待してビタミンEやビタミンCなどの抗酸化剤の投与や、点滴を行い、貧血がひどい場合は、輸血を行うこともあります。
注意点
貧血が生じるといわれている上記量は、目安にすぎません。食べた量が少なくても、遺伝的に中毒を起こしやすい犬、幼犬や老犬、他に病気のある犬などは、赤血球の酸化障害が起こりやすいと考えられます。
また、タマネギの収穫時期や産地、調理法などにより、中毒成分量に差が出ることも考えられます。食べたことがわかっている場合は、動物病院に相談しましょう。
症状(異常)に気づくためには、正常がわかっていないといけません。日頃から、歯茎や舌の色、呼吸の回数や心臓の拍動の回数(わきの下から胸に手を当てる、または耳を当てると聴診器がなくても確認できます)、尿の色を確認しておきましょう。
タマネギ中毒は、犬によっては大量に食べても症状の出ないこともあります。気づかないうちに回復できたのかもしれません。タマネギを少量食べただけでも、ひどい貧血になる犬もいます。飼っている犬がタマネギを食べても大丈夫だったからと言って、他の犬にも勧めることはやめましょう。
アルコール
原因
アルコール飲料の誤飲や酒かすなどの誤食、また、腐ったリンゴやパン生地などは、発酵によりアルコールが産生されるため、これらの誤食でも中毒を起こすことがあります。
胃腸から吸収されたアルコールは脳に作用し、神経症状が出ます。
症状
通常、アルコール摂取1時間以内に、元気消失、ふらつき、沈鬱、ひどくなると、低体温や昏睡に陥り、呼吸が抑制されます。パン生地を食べてしまった場合は、犬の体内の温度により発酵が進み、胃腸にガスがたまるため、腹部膨満や腹痛も生じます。
治療
症状が出ている場合の催吐処置は、うまく吐くことができずに、気管に入ってしまい誤嚥性肺炎になる危険性があるため、慎重に行わなければなりません。重症な犬に血液透析で治療を行ったという報告もありますが、多くは、点滴などの支持療法で改善します。
注意点
犬は何でも口にします。猫と異なり、腐った香りを好むこともあり、発酵したものを口にすることは珍しくありません。何を食べたかわからなくても、呼気からアルコール臭がすれば見当がつきますが、酒かすなどの誤食では匂いが少ないこともあり、誤食を見逃すと治療も遅れてしまいます。
食いしん坊の犬は注意しましょう。パン作りの発酵の工程は、わんちゃんの手(口)の届かないところで行いましょう。
ぶどう類
原因
ぶどうやレーズンなどを食べてしまうことで腎臓に障害が起こります。
詳しい原因はわかっていませんが、腎臓に毒性を示す物質、または、犬の特異体質により中毒が生じるのではないかと考えられています。
わずか2.8 g/kgのレーズンで中毒が生じることもあれば、1 kgのレーズンを食べても無症状の犬もいます。
症状
食べて24時間以内に嘔吐が見られることが多いです。下痢や腹痛を示すこともあります。その後、腎臓への障害が生じると、飲水量の増加、タンパク尿、尿量の減少が生じます。
腎臓が尿を作れなくなると、治る可能性は非常に低くなります。
治療
ぶどう類を食べて間もないなら、催吐処置や、活性炭の投与を行います。
血管から行う点滴を少なくとも72時間行うことが推奨されています。
ぶどうの種類や犬によって、中毒の程度が大きく異なるため、食べた量は当てになりません。早めの治療が良い結果につながる可能性が高く、積極的な治療が推奨されています。
注意点
このぶどう中毒は国内でも報告されています。デラウェアを食べたわんちゃんが急性腎不全で亡くなっています。誤ってレーズンパンなどを食べてしまうことのないように、注意しましょう。
ホップ
原因
海外では、家庭内でビール醸造の流行に伴い、ホップの誤食による中毒が発生しているようです。国内では、アルコール分1度以上の飲料は、酒税法上、酒類の製造免許を持たずに作ることは禁止されています。そのため、ホップ中毒は、国内での心配はいらないと考えてしまいそうですが、ホップは緑のカーテンとして販売されているため、注意が必要です。
ホップに含まれる成分や代謝産物によって、悪性高熱が生じます。すべての犬種が中毒を起こすリスクがありますが、悪性高熱を起こしやすい犬種(グレイハウンド、ラブラドールレトリバー、セントバーナード、ドーベルマン、ボーダーコリーなど)はホップ中毒に注意です。
症状
ホップを食べて数時間以内で、体温が上昇し、心臓の拍動や呼吸が速くなり、嘔吐や腹痛、発作を生じます。筋肉が壊れたことによる暗褐色の尿になります。死亡率の高い中毒です。
治療
食べて間もないなら催吐処置を行います。高温の場合、体温を下げるために冷却し、悪性高熱の投薬治療を行います。
注意点
ホップは、緑のカーテンとしてだけではなく、人間では、食用やハーブとして用いられていますが、犬には与えないでください。
次回、家庭内に潜む犬にとって危険な食べ物 パート2 に続きます。
獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)
山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。
- 第1回:犬の食事に含まれる三大栄養素の割合
- 第2回:犬の痒みの訴え
- 第3回:犬にとっての必須栄養素 ビタミンE
- 第4回:犬のてんかん
- 第5回:家庭内に潜む犬にとって危険な食べ物 パート1
- 第6回:家庭内に潜む犬にとって危険な食べ物 パート2
- 第7回:犬にとってのビタミンD
- 第8回:犬の食事の嵩(かさ)を増やす方法と注意点
- 第9回:犬にとってのビタミンK
- 第10回:犬が酵素を取り入れることの意味
- 第11回:犬にとってのビタミンA
- 第12回:犬と乳酸菌
- 第13回:犬にオリゴ糖を与えて期待できること
- 第14回:犬の熱中症の怖さと対策方法
- 第15回:愛犬の食欲が少し落ちたときにできること
- 第16回:犬に必要な栄養素 チアミン(ビタミンB1)
- 第17回:ドッグフードを変えると同じカロリーでも太っちゃうわんちゃんへ
- 第18回:犬の心臓病 うっ血性心不全
- 第19回:犬に必要な栄養素 リボフラビン(ビタミンB2)
- 第20回:犬の胆泥症 <前編>
- 第21回:犬の胆泥症 <後編>
- 第22回:犬に必要な栄養素 ナイアシン(ビタミンB3)
- 第23回:犬にグルテンフリーの食事は必要ですか?
- 第24回:犬に必要な栄養素 - ビタミンB6 –
- 第25回:犬に穀物は必要?
- 第26回:犬に必要な栄養素 -パントテン酸(VB5)-
- 第27回:ドッグフードと犬の拡張型心筋症の関係
- 第28回:犬に必要な栄養素 – 葉酸(ビタミンB9) –
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- 第30回:ドッグフードがない!そんな時のドッグフード代わりの今日だけ手作り食
- 第31回:犬に必要な栄養素 – コリン –
- 第32回:犬に必要な栄養素 カルシウム(Ca)
- 第33回:犬のストレス
- 第34回:犬の尿路結石 -前編-
- 第35回:犬の尿路結石 -後編-
- 第36回:犬の日光浴
- 第37回:犬に必要な栄養素 リン(P)
- 第38回:犬のよだれが多いとき
- 第39回:犬に必要な栄養素 マグネシウム(Mg)
- 第40回:犬に必要な栄養素 -ナトリウム(Na)と塩素(Cl)-
- 第41回:犬に必要な栄養素 -カリウム(K)-
- 第42回:犬に必要な栄養素 -鉄(Fe)-
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- 第47回:犬に必要な栄養素 - セレン (Se) –
- 第48回:犬に必要な栄養素 - ヨウ素(I)-
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- 第53回:犬の血液検査項目 -Ca(カルシウム)-
- 第54回:犬の血液検査項目 -GLU(グルコース・血糖値)-
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