獣医師のドッグフード研究コラム
こんにちは。獣医師の清水いと世です。
みなさんのわんちゃんは日光浴しますか?
日焼けを気にして、日光を避けていますか?
暑いのに、日向でパンティングしながら寝ていませんか?
体の一部しか当たらないほどのわずかな日向でも、日光浴にチャレンジしていませんか?
今回は、そんなわんちゃんの日光浴についての話です。
太陽は日光浴に必要ですが、その太陽からはさまざまな波長の光が出ています。
代表的な光が、可視光線、紫外線、赤外線です。
可視光線は、私たちの目に見える光です。物の色を認識することができるのは、可視光線の作用によるものです。可視光線を7色に分けると、最も波長の短い箇所が紫色、波長が長い箇所が赤色になります。この紫色よりさらに波長の短い側(紫色の外側)に、紫外線、赤色よりさらに波長の長い側(赤色の外側)に、赤外線があります。
紫外線には、物質を化学変化させる作用があります。この作用は、日焼けやシミの原因になる他、遺伝子であるDNAに傷をつけてしまうため、がんのリスクにつながることもあります。
しかし、殺菌効果になるため、太陽の下に布団を干すように日光消毒として使用したり、紫外線ランプのように殺菌灯としても使用されています。
また、多くの動物では皮膚のビタミンD合成の刺激になります。紫外線の作用も利用しながら、私たち動物は生きています。
赤外線には、暖めてくれる作用があります。この作用により、冬は太陽の下で暖かさを感じますが、夏は暑く、熱中症の原因になってしまいます。
犬に聞いてみないとわかりません。
太陽から出ている紫外線や赤外線の作用を利用しているのかもしれませんし、それ以外の理由かもしれません。
通常、犬が自ら不快と感じる行動を取るとは考えにくいため、何らかの好ましい効果があって、日光浴を行っているのでしょう。
■考えられる犬の日光浴の理由
紫外線の作用から考えると、私たちが布団の天日干しを行うように、犬も体を日光消毒しているのかもしれません。犬はほぼ全身を毛で覆われています。被毛中の湿度をコントロールし、皮膚常在菌を安定させるのに、日光浴は必要なのかもしれません。
赤外線の作用から考えると、太陽光から暖を取っているのかもしれません。犬も人と同じ恒温動物です。体は体温を一定に保つためにエネルギーを使って熱を作り続けます。太陽光から熱を得ることで、自分のエネルギーを節約しているのかもしれません。足先、尾の先、耳の先まで温めて、血行を良くしているのかもしれません。
■可能性が低いと考えられる犬の日光浴の理由
犬がビタミンD合成のために日光浴を行っている可能性は低いようです。
私たち人間は、紫外線により皮膚の7-デヒドロコレステロールという物質から、ビタミンDを合成することができます。犬の皮膚にはこの7-デヒドロコレステロールが少ないため、ビタミンD合成には限界があります。
そのため、犬に必要なビタミンD量は、ドッグフード中に含めなければいけません。ビタミンDは体内のカルシウムの状態を保つために大切なビタミンであり、腸からのカルシウムの吸収を増やしてくれます。
ビタミンDが不足するとカルシウム不足になり、成長期にはくる病という骨が変形してしまう病気に、成犬でも骨密度が減少する病気になってしまうことがあります。
ビタミンDは骨の健康に重要なだけでなく、近年、犬のリンパ腫や心疾患、慢性腎疾患、炎症性腸疾患(IBD)のような様々な疾患との関連が報告されています。カルシウム代謝だけでなく、細胞の分化や増殖にも関与するため、がんへの効果を期待して研究が行われています。
ビタミンDは脂溶性ビタミンのため、過剰症にも注意が必要なビタミンです。摂取量が多すぎると、腎臓など骨以外の組織にカルシウムが沈着し、病気になってしまいます。体内に取り入れる量は適切に管理しましょう。
わんちゃんは日光浴を、皮膚の健康や体温の保持に利用しているかもしれません。皮膚でビタミンDを合成する作用にはあまり期待できませんが、解明されていない太陽光の有用性をわんちゃんは知っていて、日光浴をしているのかもしれません。
お天気のいい日は気持ちが良く、お日様から多くの恩恵を受けることができますが、欠点もあります。
私たち同様に、過度の日光浴によって、皮膚を傷めたり、シミになったり、熱中症にならないように、飼い主様の方で配慮しましょう。
特に皮膚病のあるわんちゃんの皮膚はデリケートです。紫外線の浴びすぎで皮膚炎が悪化することも考えられますし、赤外線によって皮膚温度が上昇してしまうと、痒みもひどくなってしまいます。
また、短頭種のような犬種や肥満犬、老犬や病気の犬は、体にこもった熱を放散することが苦手なため、熱中症をおこしやすくなります。
わんちゃんが日光浴を楽しめるように、日陰や水飲み場への誘導も行いましょう。
獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)
山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。