獣医師のドッグフード研究コラム

第34回:犬の尿路結石 -前編-

 

 

こんにちは。獣医師の清水いと世です。
今回は、わんちゃんの尿路結石について前編と後編に分けて説明します。

 

 

犬の尿路結石とは

尿路には、尿を作る腎臓、尿を貯める膀胱、腎臓で作った尿を膀胱へ送る管である尿管、そして膀胱から外へ尿を排泄するための管である尿道の4か所があります。
このいずれかに存在する結石が尿路結石です。腎臓にあれば腎結石、膀胱にあれば膀胱結石です。

 

尿路結石が緊急に問題になってくるのは、その結石によって尿路が塞がってしまうことです。尿には体の老廃物を排泄する役割があります。結石による閉塞で尿が排泄できなくなると、体に老廃物が蓄積したり、腎臓が破壊されたり、時に命にかかわる状態に陥ってしまいます。

 

結石の種類は、ストルバイト尿石、シュウ酸カルシウム尿石、尿酸尿石、シスチン尿石などがあります。後編では、犬の代表的な尿石であるストルバイトとシュウ酸カルシウムについて説明します。

 

 

結石と結晶

結石と結晶は異なります。

 

結石の確認は、レントゲンやエコー検査などで行いますが、あまり小さい結石だと確認できないこともあります。また、レントゲンに写らないタイプの結石もあるため、いくつかの検査を組み合わせて結石の診断は行われます。

 

顕微鏡で確認されるものは、通常、結晶です。結晶が尿中に濃い濃度で、そして長時間存在することで、結石に成長してしまいます。結石は、その種類や経過時間によって、砂粒サイズから鶏卵サイズ以上の大きさがあり、形も金平糖のようなギザギザ型や卵のような丸型などさまざまな形があります。

 

動物病院で行われる尿検査には、尿試験紙による尿糖、尿タンパク、尿pHなどを調べる検査や、尿を遠心分離して尿の底に沈んだ物質を顕微鏡で調べる検査などがあります。

 

結石は種類によって治療法が異なるため、結石の種類の確認は重要です。

 

ストルバイトやシュウ酸カルシウムなど、結晶には特有の形があるため、これを顕微鏡で観察することで、結石の種類を推測することができます。しかし、この推測は、外れることもあります。

 

例えば、膀胱に実際に存在するのはシュウ酸カルシウムの結石でも、尿の細菌感染によって、顕微鏡検査ではストルバイトの結晶が検出されることがあるからです。この場合、ストルバイト結石を溶かすための治療を行っても結石は治りません。

 

結石の種類を同定するためには結石の検査が必要ですが、結石が体外に排出されなければ、または手術などで尿路から結石を取り出さなければ、検査はできません。そのため、検査できる結石が手元にない場合、尿中に沈殿した結晶を顕微鏡で検査することによって、結石の種類の推測が行われます。

 

尿検査で結晶が確認されたからといって、必ず結石になる、結石があるとは限りません。結石の確認はレントゲンなどで行います。結晶があっても治療せずに経過観察となる場合もありますし、治療の対象となる場合もあります。わんちゃんが尿路結石や結晶の診断を受けて心配な場合は、かかりつけの動物病院に相談しましょう。

 

 

ごはんを待っているチワワ犬

犬の尿路結石と食事について

尿路結石は、その結石の名称から推測される成分の摂取を控えても必ず予防できるとは限りません。これが尿路結石の管理の難しいところです。

 

例えば、リン酸カルシウム結石やシュウ酸カルシウム結石のように、名前にカルシウムがついているから、カルシウムの摂取を控えれば予防できるかというと、そうも上手くいかないのです。

 

 

・消化管からの吸収の影響

ドッグフードのように口から摂取したものは、胃腸管で体内に吸収できるサイズまで消化(分解)されます。その後、必要な栄養素は体内に吸収されますが、一部、吸収されずにそのまま便と一緒に排泄されてしまう場合もあります。

 

尿路結石の原因となる成分が体内に取り込みしやすい形に消化吸収されると、その結石のリスクは高まるかもしれません。逆に、吸収されずに便から排泄されれば、リスクは下がるかもしれません。

 

例えば、シュウ酸カルシウム結石の場合、シュウ酸やカルシウムの含まれた食事を摂取することは、この結石の発生をイメージしやすいですが、一緒に摂取することによって消化管内でシュウ酸カルシウムに結合し、体に吸収されにくくなることが、ヒトでは期待されています。

 

ドッグフードでも、シュウ酸量を減らさずにカルシウム量だけを減らすとシュウ酸カルシウムのリスクが増えてしまうことが心配されています。

 

 

・代謝の影響

結石の原因となる成分の摂取を控えても、体内での代謝反応によって生じてしまうこともあります。例えば、カルシウムの摂取量を減らしても、ホルモンなどの作用により骨のカルシウムを溶かして血中のカルシウムは増加することもあります。

 

 

・腎臓の影響

腎臓は血液から尿を作りますが、これは体内の老廃物だけでなく、余分な水分やミネラルのような栄養素を排泄したり、体の酸塩基バランス(アシドーシスやアルカローシスの状態)を整える働きがあります。腎臓がカルシウムを過剰に排泄してしまうと、尿中のカルシウムが多くなり、カルシウムを含む結石が生じるかもしれません。

 

結石の原因成分の摂取量を管理するだけで、尿路結石をコントロールできるとは限りませんが、もちろん、犬の体質や結石のタイプによっては、食事の管理は非常に重要になってきます。

 

 

・共通の食事管理

尿路結石は、尿中に原因成分の濃度が濃く、そして長時間存在してしまうと、結石を形成しやすくなります。結石を形成させないためには、飲水量を増やして薄い尿にして、尿中で結石に成長する機会(結晶同士が出会う機会)を減らすことです。

 

残念ながら、わんちゃんがこれを理解して自発的に水を飲んでくれることはありません。食事の水分量を増やして、摂取する水分量を増やしましょう。

 

ドライフードをふやかすのも方法ですが、ドッグフードのタイプによってはあまりふやけません。砕いたり、粉砕してふやかしましょう。または、ドライフードから缶詰のような水分量の多いウェットフードに変更しましょう。

 

 

後編は ストルバイト結石・シュウ酸カルシウム結石についての説明です。

 

 

 

 

 

 

 

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犬の写真

獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)

山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。

 

 

 

 

 

 

 

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