獣医師のドッグフード研究コラム
ビタミンDは、脂溶性ビタミンです。
いくつか種類がありますが、生物活性を持つのは、ビタミンD2とD3の2種類です。
主にカルシウムの代謝に作用し、骨の健康に関与します。
ビタミンD2は植物性の食べ物(きのこ類など)に、ビタミンD3は動物性の食べ物(肉や魚など)に含まれています。
多くの動物種が、ビタミンD3はD2より、同等以上の効率で利用できると言われています。日本人の食事摂取基準では、ビタミンD2もD3もほぼ同等の生理効力を現すことから、両者を区別せずにビタミンD として基準を定めています。
犬でも同等に利用できると言われていますが、犬猫の栄養基準を作成しているNRCは、ビタミンD3のためのビタミンD2代替値が犬では設定されていないことから、要求量をビタミンD3の量で表しています。
食べ物などにより口から摂取されたビタミンDは、消化管内で胆汁酸の作用によりミセルを形成し、小腸から吸収され、カイロミクロンに取り込まれてリンパ管に分泌されます。
その後、ビタミンD結合タンパク質(DBP)などと結合して輸送され、脂肪を貯蔵する様々な組織に分配されます。
人を含め多くの動物では、皮膚のプロビタミンDから紫外線照射により、ビタミンDを作ることができます。
皮膚で作られたビタミンDや食事から吸収されたビタミンDは、肝臓に輸送されてヒドロキシ化され、25-ヒドロキシビタミンDになります。この血中濃度は、食事や皮膚合成のビタミンDを反映するため、ビタミンDの栄養状態の指標になります。
25-ヒドロキシビタミンDは、その後腎臓でさらにヒドロキシ化され、生物学的活性型である1,25-ジヒドロキシビタミンD(活性型ビタミンD)になります。
カルシウムは、骨に必要な栄養素ですが、あらゆる細胞の情報伝達にも非常に重要な役割を果たします。その濃度に異常が生じると、心臓では不整脈が、神経では発作などが生じてしまいます。そのため、血液中のカルシウム濃度は、厳密にコントロールされています。
このコントロールには、副甲状腺ホルモン(PTH)やカルシトニンとともに、活性型ビタミンDも深く関与しています。この腎臓でのヒドロキシ化は、血中カルシウム濃度低下によって分泌される副甲状腺ホルモン(PTH)によって促進され、カルシウム濃度増加に伴い分泌されるカルシトニンによって抑制されます。
活性型ビタミンDは、カルシウムとリンの腸からの吸収を促進し、骨への沈着を増加させるほか、腎臓のカルシウムとリンの排泄を抑制し、骨からの溶出を促進して血中カルシウムやリンを増やす働きがあります。
犬や猫の皮膚は、ビタミンDを合成できる動物種と比べ、プロビタミンDが少ないため、皮膚に紫外線を照射しても、人のように大きな合成反応が起こりません。
人と異なり、犬猫は、食事からの摂取が特に重要になります。ビタミンDが不足しているからと言って、日光浴に頼るのではなく、食事からの摂取を心がけましょう。
日本人の食事摂取基準では、ビタミンD2とD3の合計量(µg)で基準が定められており、成人の目安量は男女ともに5.5 µg/日です。1日の要求エネルギー量が2,000 kcalの人の場合、2.75 µg/1,000 kcalです。
ビタミンDの食事濃度は、IUの単位で表されることもあります。1 IU = 0.025 µgのビタミンD3、すなわち、40 IU = 1 µgのビタミンD3です。NRCでは、要求量はビタミンD3のµgの単位により表されていますが、市販ペットフードの品質基準であるAAFCO養分基準では、IUの単位により表記されています。
NRCでは、犬のビタミンDの欠乏症や過剰症の研究や報告から、基準を設定しています。
犬の推奨許容量は、3.4 µg/1,000 kcalであり、安全上限は20 µg/1,000 kcalです。AAFCO養分基準では、µgの単位で表すと、最小値が3.125 µg/1,000 kcal、最大値が18.75 µg/1,000 kcalです。
ビタミンDの要求量は、食事中のカルシウムやリンの濃度、犬の健康状態、大型犬か小型犬かなどの犬種差、そして年齢によって影響を受けます。成長の早い大型犬の子犬は、特に感受性が高いため、過不足には注意が必要です。
ビタミンDが欠乏するとくる病になります。くる病の犬は、元気がなく、寝てばかりになり、進行すると骨の異常がはじまり、関節近くの骨が膨らみ、長い骨は曲がっていきます。手首や足首で、膨らみがわかりやすいようです。成長の早い犬の方が、発症も早いと言われています。
成犬では、骨軟化症と呼ばれるミネラル減少が生じます。また、腎臓が悪くなると活性型ビタミンDが作れなくなり、骨軟化症が起こることがあります。
手作り食によるビタミンD欠乏症により、子犬では骨軟骨炎や発作の報告があり、成犬でも上下の顎が柔らかくなってしまった報告があります。
高用量のビタミンDは、高カルシウム血症、血管や腎臓など軟組織でのカルシウムの異常沈着、そして骨幹の直径増加を伴う長骨の過剰ミネラル沈着が生じ、死に至る場合があります。
ほとんどの動物種では、ビタミンD3は同程度の量ではビタミンD2より10から20倍毒性が強く、犬でも同様だと考えられています。
ビタミンDは、骨やカルシウムに関する作用だけでなく、近年、細胞の分化や増殖に関与し、様々な疾患との関係が明らかになってきています。
血中の25ヒドロキシビタミンDは、リンパ腫、肥満細胞腫、血管肉腫、うっ血性心不全、原発性副甲状腺機能亢進症、慢性腎疾患、感染、炎症性腸疾患(IBD)、そしてタンパク漏出性腸症(PLE)のある犬では低かったという報告があり、また、25ヒドロキシビタミンDが減少するにつれ、がんの相対リスクは増加するという報告があります。
ビタミンDの活性型は、腫瘍細胞を分化誘導し、増殖や侵襲や血管新生や転移能を抑制すると言われており、犬の一部の腫瘍にも、ビタミンD誘導体が抗腫瘍活性を持つようです。
犬の手作り食では、不足することが多い栄養素です。魚や卵を用いることで必要量を満たすことができますが、鮭などビタミンDを多く含む魚を用いると基準を超えてしまうこともあり、手作り食に用いる食材の種類や量には注意が必要です。
ビタミンDを過剰に含んでいた市販フードにより腎不全になった報告もあります。
また、サプリメントにも注意が必要です。総合ビタミン剤にビタミンDが含まれていることは予想できますが、魚油やカルシウムのサプリメントの中には、ビタミンDが一緒に含まれている製品もあります。
水溶性ビタミンと異なり、脂溶性ビタミンであるビタミンDは過剰症にも注意が必要です。食事と異なり、サプリメントは濃度が濃く含まれる分、注意して用いましょう。不安な場合は、専門家に相談しましょう。
獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)
山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。