獣医師のドッグフード研究コラム
こんにちは。獣医師の清水いと世です。
わんちゃんの食欲が落ちたとき、必ずしも胃腸の調子が悪いとは限りません。
今回は、少し食欲が落ちたときにできることについて、説明します。
毎日とても元気なわんちゃんでも、たまには調子を崩します。
何となく元気がない、少し食欲がない、顔色?が悪いなどなど。
下痢や咳のような明らかな症状は出ていないけど、大丈夫かしら。
では、何が原因か?
簡単にはわかりません。
難しいですね。
何ができるのか?
「動物病院に連れていきましょう!」というのが正しい答えですが、それ以外であれば、「そっとしておく」ことです。
正確には、「気持ちよく過ごせる快適な環境で休ませてあげる」ことです。
人間の場合、
今日はだるい、お天気のせいかしら。
胸焼けがする、昨日食べ過ぎたせいかしら。
腰が痛い、昨日はしゃぎすぎたせいかしら。
このような症状は、大したことなければ、1日休むと回復に向かいます。
わんちゃんにも、考えられます。
こんな時に、無理に食べなさいと言われても、
こんな時に、おもちゃを投げて、取って来てと言われても、
嫌ですよね。
少し元気になってきても、安静を心がけてあげてください。
食いしん坊なわんちゃんは、少し調子が良くなると、また食べすぎてしまいます。
遊ぶことが大好きなわんちゃんは、少し調子が良くなると、一生懸命遊んでしまいます。
ぶり返します。悪化するかもしれません。
しばらくは、飼い主様が心を鬼にして、安静を心がけてあげてください。
次の日も元気がない、さらに食欲が落ちるようであれば、動物病院に行くことを考えなくてはいけません。
「そっとしておく」以外に、どうしても何かをしてあげたいとき、原因を探しましょう。
原因は、わんちゃんの調子が悪い(食べたくない)か、ドッグフードに問題があるかです。
わんちゃんに原因があるかどうかは、下痢など明らかな症状がないとわかりにくいです。
お腹をこわす以外の病気でも、胃腸の動きが悪くなってしまうこともあり、無理に食べると嘔吐につながることもあります。
そのため、まず、わんちゃんの体調チェックをしましょう。
体重や体温測定、呼吸や心臓拍動の回数、歯茎の色、震えの有無、目の輝き、そして便や尿の状態、休んでいるときの体勢チェックも大切です。
これらは、できる範囲でかまいません。
自宅でできる方法を説明します。
体重測定
わんちゃんを抱いて人間用の体重計に乗って測定しましょう。その体重から人間のみの体重を引けばわんちゃんの体重をはかることができます。
ただし、この方法は、わんちゃんが小さすぎると正確に測れないですし、大きすぎれば抱っこできません。ガウガウや暴れん坊さんは危険なので注意が必要です。
体温測定
動物病院などでは犬の体温はお尻の穴で検温しますが、嫌がるわんちゃんもいるので、動いて怪我をしては大変です。自宅では、人間用の体温計で人と同じように腋に挟んで測定できます。内股に挟んでも測定できます。お尻の穴に入れなくでもほぼ同じ温度を測定できます。ただし、ピピっと測定中にじっとできるわんちゃんに限ります。ガウガウや暴れん坊さんは危険なので注意が必要です。
1分間の呼吸回数や心臓の拍動回数
胸の動きを見ることで呼吸の確認ができます。浅く速くなっていないか、大きく努力して呼吸していないかも、チェックしてください。
目で見える胸の動きは、心臓の拍動ではありません。わんちゃんの胸に耳を当てて心臓の鼓動を聞いてみてください。
私たち獣医師は少しかっこよく聴診器で聞きますが、なくても聞くことができます。
わんちゃんが立った時の左の肘のあたりの胸の位置が最も良く聞こえます。
太り過ぎのわんちゃんや、鼻ぺちゃ犬で呼吸が常にガーガーしているわんちゃんは聴き取りにくいことがあります。また、ガウガウや暴れん坊さんの胸に顔を近づけるのは危険なので注意が必要です。
わんちゃんが嫌がらなければ、お腹の音も聞きましょう。
歯茎の色
唇をめくって、歯茎の色を見てください。普通はピンク色です。白かったり、暗赤色はあまりよくありません。ガウガウのわんちゃんの唇をめくるのは危険です。口を開けた一瞬を見逃さないようにして確認するか、無理してまでは見なくてもよいでしょう。
震えの有無
体が震えていないか見てください。震えがある場合、全身なのか、寝ているときなのか、小刻みなのかガタガタ震えているのかチェックしましょう。震えは、寒さや悪寒を感じているときだけでなく、痛いときや怖いとき、神経症状のこともあります。
目の輝き
いつものように目がキラキラしているか見てください。うつろになってないか、しょぼしょぼしていないか、目が揺れていないかもチェックしましょう。
便や尿の状態
トイレをお散歩で済ませていたり、雨や夜だったり、トイレマット吸収後だと、わかりにくく病気を見落としてしまいます。白いトイレットペーパーなどで色を確認し、匂いもチェックしましょう。
お散歩の時でもトイレマットで済ませることができれば、自宅に持って帰って量も確認できますし、お散歩コースへの配慮にもなります。
休んでいるときの体勢
病気のときは、横になる(寝る)ことができなかったり、お尻を突き上げて寝たり、いつもと違う場所で寝たり、変わった様子を見せることがあります。いつものようにお腹を見せてリラックスして寝ているかどうかは、一つの目安になります。
以上は、わんちゃんの体調チェックですが、これは日ごろから行っていることで、元気な時との比較ができ、異常かどうかに気づくことができます。
異常があると思った場合は、かかりつけの動物病院で、その状態を診察、診断してもらうことで、病気を早めに治療することができますし、異常でなかった場合は、安心できます。
自宅チェックの注意点は、あまり頻繁に行わないことです。
定期的なチェックは必要ですが、頻繁にチェックされると、わんちゃん、休めません。
次に、ドッグフードのチェックです。
いつもと違うドッグフードであれば、いつものフードに戻してあげましょう。
いつもと同じドライタイプのドッグフードでも、開封してかなりの日数が経過しているときは、新しく買い替えてみましょう。
また、同じフードでも製造日が異なるとよく食べるようになることがあるため、ドッグフードを買い替える(違うロットナンバーにする)のも方法です。
わんちゃんのチェックもドッグフードのチェックも済み、動物病院につれていくほどではなさそうだけど、少し食欲がないので、ど~しても何かを与えたいとき、
与えるのを我慢する!
または、
好物を少しだけ与える!
です。
少し食欲がないくらいでは、命にかかわることはありません。
でも、大好きな食べ物を少し与えて、食べてくれるかどうかは、症状の深刻さの目安になります。
好物なら食べてくれるのであれば、少し、安心できます。
食べてくれるとうれしいですね。
与えすぎは、いつも以上に注意してください。
胃腸の不調により、食欲が落ちているなら、与えすぎはいけません。
また、「ドッグフードを食べなければ、美味しいものがもらえる」と覚えてしまうかもしれません。
私は、ドッグフード以外に好きな食べ物がわかっている方が良いと考えています。
好物は、今回のような少し食欲がないときに、病気の重篤さの程度の判断に使えます。
また、調子が悪いときでも、これなら食べる!といった大好物は、病気の時の大切な栄養になります。
この好物探しですが、わんちゃんによっては、ドッグフード以外は与えてはいけないように動物病院から指導を受けている場合があります。
このような特殊な病気や体質のわんちゃんは、勝手にドッグフード以外の好物を探すことができません。動物病院で相談して、指示を仰いでください。
気にしすぎることはありませんが、長期間の放置もいけません。
今までと何か違うから、少し食べなくなっているはずです。
わんちゃんに、少し食べなくなった訳を聞いてみましょう。
獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)
山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。