獣医師のドッグフード研究コラム
こんにちは。獣医師の清水いと世です。
「わんちゃんに穀物は必要?」という疑問をお持ちの飼い主様もいらっしゃると思います。
そこで今回は、わんちゃんに穀物が必要かどうかについて説明します。
穀物とは、稲、麦、トウモロコシなどの作物のことです。
「わんちゃんに穀物は必要?」という質問の多くは、「わんちゃんに炭水化物は必要?」という質問とも関連しているため、ここでは、穀物に主に含まれている炭水化物の必要性についても説明します。
炭水化物とは、炭素(元素記号C)と水分子(H2O)から成る化合物です。最も小さい化合物はブドウ糖のような単糖類、大きな化合物はでんぷんやグリコーゲン、セルロースのような多糖類があります。
炭水化物の最も大切な機能は、エネルギー源としての役割です。これは主に糖質が担っていますが、腸内細菌が発酵、分解する食物繊維もエネルギーの一部を供給します。
食物繊維にはこのように腸内細菌の食事になるだけでなく、腸内の水分などを保持する作用もあります。
このように、炭水化物の摂取は、エネルギー摂取になるだけでなく、腸内環境にも影響を及ぼします。
「わんちゃんは、トウモロコシの消化ができないの?」という質問を受けることがあります。
穀物のでんぷん粒は消化管から分泌されるα-アミラーゼにより分解されます。
でんぷんは消化酵素と接近しやすくなると、より分解できるようになります。手作り食で行われる加熱調理やドッグフードのエクストルード加工は、この消化の改善に貢献しています。
このような穀物を犬は効率的に消化でき、吸収を免れた穀物は、大腸内の微生物の発酵に利用されます。
オオカミと異なり、現在の犬は、炭水化物の消化や取り込みにかかわる遺伝子を持つようになりました。また、犬に自由に食事を選択させた研究では、オオカミより低いタンパク質量の食事を選んでいます。
現代のわんちゃんは適切に加工調理された穀物のでんぷんを消化することができ、その食物繊維は腸内細菌が利用してくれます。
もし、皆さんのわんちゃんが穀物を消化できていないようであれば問題です。病気が隠れていないか、食事があっていないのか、見直す必要があるでしょう。
上記したように、犬は穀物を消化して利用することができますが、犬に穀物は必要なのでしょうか?
穀物の主成分である炭水化物の主な役割はエネルギー源ですが、肝臓はタンパク質や脂肪からブドウ糖を作り出すことができます(糖新生)。炭水化物は、エネルギー源として必ず必要というわけではありませんが、消化吸収時にすでにブドウ糖という形で存在していることを考えると、効率のいいエネルギー源です。肝疾患のように、糖新生能力に限界がある場合、直接、ブドウ糖が存在したほうが、すぐにエネルギーとして利用できます。
また、炭水化物を含む食事を食べた母犬は、炭水化物を含まない食事のときと比べて、出産した子犬の頭数が多く、生存率も高かったと報告されています。グレイハウンドでの研究では、高炭水化物低タンパク質食の方が低炭水化物高タンパク質食より速く走れたという報告もあります。
さらに、穀物は、食物繊維源でもあります。これらは腸内の微生物によって発酵を受けます。そして酪酸のような短鎖脂肪酸や乳酸が産生され、わんちゃん自身や大腸の細胞のエネルギーとして利用され、消化管の健康にも役立ちます。
食物繊維で食事がかさ増しできれば、わんちゃんを満腹させてあげることができます。これはとても食いしん坊なわんちゃん、肥満のわんちゃんの食べ過ぎを防ぐのに有効です。また、糖尿病など、食後の血糖値のコントロールが上手くいかないわんちゃんの管理にも役立つでしょう。
高炭水化物低タンパク質低脂肪の食事によって、栄養のバランスが崩れるのも問題ですし、糖質を取り過ぎていれば肥満の心配もあります。
また、食物繊維の多い食事は、他の栄養素の消化率を下げてしまう可能性があり、軟便や頻回便になったり、食事の嗜好性が落ちることも考えられます。
食事に穀物が含まれていなくても、他の食材で栄養素やエネルギーが満たされるのであれば問題ありません。
食事に炭水化物が含まれていない場合、その分のエネルギーをタンパク質や脂肪から補わなくてはいけないため、高タンパク質食や高脂肪食になってしまいます。高タンパク質食は、腎疾患や肝疾患などの病気が悪化することもあります。高脂肪食では、膵炎や胆嚢疾患の発生や悪化も心配です。
また、そのような炭水化物を含まない食事は、肝疾患のように、タンパク質や脂肪から糖を作る能力が落ちていると、低血糖になってけいれん発作が起こるかもしれません。食物繊維の補給にもなる炭水化物がなければ、便秘や軟便になるかもしれません。
タンパク質と脂肪と炭水化物の三大栄養素は、そのバランス(割合)が大切です。炭水化物も適切な割合で摂取しましょう。健康なわんちゃんは、さまざまな三大栄養素の割合に対応できますが、病気があるときはそのわんちゃんにあった割合(食事)が必要になります。
動物病院や専門家に相談して、皆さんのわんちゃんにあった食事を探しましょう。
・ドッグフードを変えると同じカロリーでも太っちゃうわんちゃんへ
獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)
山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。