獣医師のドッグフード研究コラム

第27回:ドッグフードと犬の拡張型心筋症の関係

 

 

こんにちは。獣医師の清水いと世です。

 

今回は、アメリカのFDA(食品医薬品局)が発表した、犬の拡張型心筋症(DCM: Dilated Cardiomyopathy)と一部のドッグフードとの関係の調査結果についてです。
すでにご存知の方もいらっしゃると思います。

 

わんちゃんのために選んだドッグフードが原因で病気になってしまうのは、とても悲しいことです。

 

 

FDAの報告について(2019年6月までの報告)

あるドッグフード製品を食べている犬の拡張型心筋症の報告が増えたため、そのドッグフードと病気の関係についてFDAは調査を始めました。その途中結果の報告です。

 

・ドッグフードについて

多くのドッグフード製品に、「グレインフリー」と表示され、主な原料はマメ類やジャガイモでした。

 

タンパク質源は、鶏肉やラム肉、魚がほとんどでしたが、カンガルーやバイソンのような変わった肉類を用いたドッグフードもありました。

 

ほとんどがドライフードでした。

 

 

・犬種について

遺伝的に拡張型心筋症になりやすい犬種以外の犬種が多く含まれていました。

 

一般的な遺伝性の拡張型心筋症は、中年から老齢の大型から超大型の雄犬が多く発症します。

グレートデン、ボクサー、ニューファンドランド、アイリッシュウルフハウンド、セントバーナード、ドーベルマンピンシャーが好発犬種です。

 

大型犬ではありませんが、アメリカンコッカ―スパニエルとイングリッシュコッカ―スパニエルもこの病気を起こしやすい犬種です。

 

一方、FDAに報告された拡張型心筋症は、さまざまな犬種、年齢、サイズでした。ゴールデンレトリバーやラブラドールレトリバーがとても多く、他、シーズーやフレンチブルドッグ、ミニチュアシュナウザー、そしてチワワやマルチーズ、ポメラニアン、ヨークシャーテリアのような小型犬も含まれていました。

 

・タウリンについて

猫はタウリン不足と拡張型心筋症との関連性がわかっているため、多くのキャットフードにはタウリンが添加されています。

 

犬はメチオニンからタウリンを合成できるため、タウリンは必須栄養素には含まれていません。

 

ドッグフードの分析では、メチオニン-シスチンは基準を満たしていましたが、血中のタウリンの値はさまざまで、低いとは限らず正常なこともありました。食事変更やタウリンの補充で拡張型心筋症の改善を認めるため、FDAは犬のタウリン代謝や必要性を引き続き調査しています。

 

ゴールデンレトリバーは、遺伝的にタウリン欠乏になりやすく、拡張型心筋症を生じる可能性があります。拡張型心筋症のゴールデンレトリバーでは、タウリン欠乏であることが多いため、注意が必要です。

 

これまでもドッグフードが原因でタウリンが欠乏した報告はあり、タンパク質源や食物繊維源のような食材、腸内細菌、タウリンの吸収や合成、排泄の問題など多くの関与が考えられています。

 

今回もタウリンの関与が非常に疑われていますが、タウリン以外の成分や、心臓に毒性を生じるような成分の混入なども調査中です。

 

 

ラブラドールがドッグフードを食べている様子

発生と症状と予後について

報告では、ここ数年で、拡張型心筋症の発生は急増していました。

 

その中には、数か月から数年、現在疑われているドッグフードを食べていた犬もいました。

 

犬の拡張型心筋症は、心臓の筋肉が拡張して心臓のサイズが大きくなってしまう病気です。

 

心臓には、血液を送るポンプの役割があります。薄く拡張した心臓の筋肉では、しっかり収縮できず、また拡張しているために心臓の弁がしっかり閉まらず、血液の逆流を起こしてしまいます。

 

そのため、全身に血液をきちんと送ることができなくなってしまいます。

 

この状態に耐えられなくなると、疲れやすい、咳をする、呼吸が苦しい、倒れるといった心不全の症状が起こります。

 

時に、深刻で致命的です。

5年にわたるこの調査で560頭の犬の報告がありましたが、100頭以上が亡くなっています。

 

早期に発見され、適切な治療、食事変更が行われれば、改善します。数か月で改善した報告もあります。

 

 

最後に

誤解のないようにしてほしいのは、ドッグフードに「グレインフリー」と表示されていても、必ずこの病気になるわけではありません。この調査では、珍しいタンパク質源だったフードもあります。もちろん、これも必ず拡張型心筋症を発症するわけではありません。

 

拡張型心筋症とドッグフードの関係は、複数の要因の絡んだ複雑な問題だと考えられています。

 

わんちゃんの心臓病は珍しい病気ではありません。特に、中年齢から高齢の小型犬の僧帽弁閉鎖不全症は、非常に多い病気です。
ただし、拡張型心筋症の心臓病は、あまり多くはありません。

 

動物病院で拡張型心筋症と診断されても、単純に今の食事が原因とは言えませんが、かかりやすい犬種以外(小型犬や若齢)であれば、食事の見直しは考慮したほうがいいかもしれません。

もちろん、大型犬であったとしても、食事の関与が否定できないのであれば、考慮すべきです。

 

心臓病の検査では、聴診や血液検査のほか、レントゲンや心電図、エコー検査を行うことがあります。毎回必ず、これらすべての検査を行うわけではなく、心臓病の種類や重篤度などによって、この検査内容は変わります。

 

拡張型心筋症は、一般的にエコー検査によって、心臓の拡張を確認します。
心臓病と診断されたけど、病名がわからない場合は、動物病院で確認しましょう。

 

また、心臓病と診断されたことがないけど、わんちゃんが疲れやすい、咳をする、呼吸が苦しそう、倒れるなど、気になる症状がある場合も、動物病院で相談してください。

 

この食事性の拡張型心筋症の場合、早期発見で改善できます。
病気が心臓で起こってしまうので、発見、治療が遅れることないように、周りの飼い主様にもお知らせください。

 

拡張型心筋症と食事に関して心配なことがあれば、専門家や動物病院に相談しましょう。

 

 

 

 

 

 

犬の写真

獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)

山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。

 

 

 

 

 

 

 

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