獣医師のドッグフード研究コラム
こんにちは。獣医師の清水いと世です。
今回は、犬の尿路結石について前編と後編に分けて説明しています。
後編は、犬の代表的な尿石であるストルバイトとシュウ酸カルシウムについて説明します。
ストルバイトは、リン酸アンモニウムマグネシウムともいいます。マグネシウムなどを制限した食事もありますが、犬の場合、感染症のコントロールが重要です。
猫と異なり、犬のストルバイト結石の多くは、ウレアーゼ産生菌の尿路感染が原因です。この細菌の作り出すウレアーゼという酵素は、尿中に排泄された窒素老廃物である尿素をアンモニアに分解し、尿中のアンモニアを増やしてしまいます。
犬の主な原因は細菌感染ですので、まずは感染症の確認と抗生物質による細菌感染の治療が優先になります。
膀胱に細菌感染が生じると、通常、血尿や頻尿といった膀胱炎の症状が起こります。膀胱は尿を貯める役割がありますが、炎症によってその機能が損なわれると、尿を貯めることができず、少しでも尿が貯まるとすぐに排泄してしまいます。何度も、または長い時間排尿ポーズをとることもあります。細菌感染があっても、このような症状がない場合もあるため、ストルバイト結石を繰り返し起こしてしまう場合は、定期的に尿検査を行い、感染の確認が必要です。
結石がある場合は、尿を酸性化する食事や薬によって結石を溶解させる治療を行います。手術などによって結石の摘出が必要になる場合もあります。
わんちゃんによって治療方法は異なるため、ストルバイト結石がある場合、かかりつけの動物病院で相談しながら治療を進めましょう。
ストルバイト結石の場合、結石形成を予防するための食事や、結石を溶かすための食事があります。動物病院で処方される療法食では、尿を酸性化する特性を持たせたり、マグネシウムを制限した栄養組成にするなど、配慮がなされています。
犬の場合、尿路の細菌感染が原因のことが多いため、尿の細菌検査を行い、感染があれば抗生物質による治療が優先されます。ストルバイト結石のための療法食は、獣医師が必要と判断した時に、処方されます。
結石のサイズによりますが、結石溶解には、専用の療法食を使用して、通常、数週間から数か月の治療期間が必要です。
細菌性のストルバイト結石だった場合、細菌感染が治癒し、結石も溶解できれば、ストルバイト結石は治ります。しかし、再び細菌感染が起こり、結石が再発してしまうこともあります。定期的に尿検査をしましょう。
シュウ酸カルシウム結石はストルバイトと異なり、薬や食事で溶解できないだけでなく、手術等で結石を取り除いても再発することのある管理が難しい病気のひとつです。
高カルシウム血症は、原因のひとつと考えられています。高カルシウム血症がある場合、さらにその原因を探すための検査が必要です。
また、血中のカルシウム濃度は正常だけど、尿中へのカルシウム排泄が多い場合も結石形成のリスクが高くなります。
原因がわかれば、その治療になります。
シュウ酸カルシウム結石の形成リスクを減らすために、薬などを使用する場合もあります。
できてしまった結石に関しては、溶解することができないので、除去するためには通常、手術等が必要です。尿と一緒に、自然に結石が排出されればいいのですが、大きなサイズだと尿道を通ることができません。シュウ酸カルシウム結石はストルバイト結石より、ゴツゴツした形状のため、膀胱や尿道粘膜を傷つけやすく、血尿が生じることも多々あります。
散歩でしかトイレをしない場合、血尿の色がわかりにくいため、尿の色を確認するために、ペットシーツ持参でお散歩するといいでしょう。尿道の途中で結石が引っかかって塞いでしまい、尿自体も出なくなってしまうと、命にかかわります。排尿ポーズをとるのに尿が出ない、ぐったりするなどの症状があれば、すぐに動物病院に連絡しましょう。
シュウ酸カルシウム結石を溶解するための食事はありません。
シュウ酸カルシウム結石を予防するための療法食は、カルシウムを制限したり、尿をアルカリ化するような配慮がなされています。療法食だけを与えていても、再発する場合もあります。コントロールの難しい結石ですので、動物病院でより良い管理方法を相談しましょう。
療法食の使用は、尿路結石の診断を受けた獣医師の指示を必ず仰いでください。
療法食を与え続けていれば、尿路結石が必ず治る、または必ず予防できるとは限りません。
漫然とした療法食の使用によって、知らない間に結石の再発、悪化、または異なるタイプの結石の発生等が起こらないようにしなくてはいけません。
わんちゃんのために、療法食の使用時は、定期的な尿検査やレントゲン検査などのチェックを行いましょう。療法食の継続や他の療法食への変更の指示、またはいつものドッグフードへの復帰の許可を獣医師から仰ぎましょう。
獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)
山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。