獣医師のドッグフード研究コラム
こんにちは。獣医師の清水いと世です。
今回は、わんちゃんに必要な栄養素、カリウムについての説明です。
カリウム(元素記号K)は、動物の体内に豊富な陽イオンであり、その多くが細胞内に存在します。体液のpHを保ち、神経や筋肉活動、酵素反応などにかかわっています。
植物の生育にも大切な栄養素なため、肥料にも多く含まれています。園芸コーナーでよく見かける「窒素、リン酸、カリ」の「カリ」はこのカリウムのことです。
犬も私たち人間も血液検査の電解質項目として、カリウムはナトリウムとセットで測定され、体液バランスの確認に用いられます。
食事の内容によってカリウムの吸収率は多少変わってきますが、ナトリウム同様、非常によく吸収されます。小腸から主に吸収され、腎臓から尿へ排泄されます。カリウムを多く摂取しても尿へ出ていくため、通常、体内にカリウムが過剰に蓄積してしまうことはありません。
カリウムは細胞内の、ナトリウムは細胞外の主要な陽イオンとして、相互に作用しながら浸透圧の調節を行い、体内の酸塩基のバランスを維持しています。他、神経の興奮伝導や筋肉の収縮にもかかわっています。
体内のカリウム量が多すぎたり少なすぎたりすると、上記機能に異常が生じ、体液バランスが崩れたり、神経・筋肉の活動異常が起こったりします。この異常が心臓で生じると不整脈を起こしてしまいます。
犬はカリウムが欠乏すると、きちんと成長できなかったり、首の筋肉が麻痺のようになり頭が腹側に曲がったり、最終的に立てなくなってしまいます。また、血圧が下がり、心臓の血液を送り出す量が減ってしまいます。
健康で、ドッグフードを食べていれば、カリウムの欠乏症になることはありません。しかし、食欲不振でドッグフードを食べることができなければ、摂取するカリウムは減ってしまいます。利尿剤の使用や病気のために尿量が増え、カリウムの尿排泄が増加したり、下痢や嘔吐によって体外へカリウム損失が増えたりすることでも、体内のカリウムは不足する可能性があります。
健康な犬であれば、カリウムの口から摂取は、多少多くても尿へ排泄されるため問題ありません。ただし、腎臓が悪くなると、カリウムの尿への排泄が妨げられ、高カリウム血症になる場合があります。体内のカリウムが過剰になると、胃腸炎や不整脈(徐脈)、心停止に陥ってしまいます。
犬のカリウム要求量は、カリウムの欠乏症を生じる量や欠乏症から回復する量、カリウムの吸収率や利用率、血中や筋肉中のカリウム濃度の研究や報告などから決められています。
犬猫の栄養学をまとめたNRC飼養標準では、犬のカリウムの安全上限量は定められていません。カリウムは多く摂取しても、尿への排泄を増やすように体が対応し、健康な犬であれば、通常、カリウム過剰にはならないと考えられています。
食材中にカリウムは豊富に含まれています。ドッグフードでは、クエン酸カリウムや塩化カリウムなどとして添加される場合もあります。
犬の手作り食のレシピ調査では、ほとんどのレシピでカリウム量は栄養基準を満たし、不足することの少ない栄養素でした。基準を満たしていたレシピの中で、カリウム源として貢献していた食材は、肉類や芋類でした。
カリウムは水に溶けやすく、調理によって煮汁に溶け出してしまいます。カリウム摂取のためには、手作り食は煮汁ごと与えましょう。また、腎疾患時などで高カリウム血症を心配するあまり、過度な茹でこぼしを行ってしまうと、他のビタミンやミネラルも失ってしまいます。カリウム制限の必要性はかかりつけの動物病院の指示を仰ぎましょう。
猫の慢性腎臓病では、血中のカリウムは低下することが多いのですが、犬の場合、増加することがあります。血中のカリウムは腎臓のカリウム排泄低下で増加しますが、アシドーシスという体内の酸が増えてしまう病態などでも増加します。慢性腎臓病の時は、このアシドーシスも生じやすくなっています。
一般的に利尿剤の使用は尿中へのカリウム排泄を増加しますが、カリウムを排泄させずに体内に保持するタイプの利尿剤もあります。心臓病や慢性腎臓病では血圧を下げるためにアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害剤)が処方されることがあり、このACE阻害剤も尿中へのカリウム排泄を抑制する作用があります。これらの薬の使用によって血中のカリウムが増加することもありますが、心臓病の犬にこれらの薬を使用しても、明らかに持続するカリウムの増加は認められなかったという報告もあります。
内服薬やサプリメント、病気の種類や病状など、さまざまな要因で血中のカリウムは増えたり減ったりします。わんちゃんが病気の場合は、動物病院で定期的に検査を行い、口から摂取する食事中のカリウムをどうすべきかは、獣医師や専門家に相談しましょう。
獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)
山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。