獣医師のドッグフード研究コラム
第45回:犬に必要な栄養素 - 亜鉛(Zn)-
こんにちは。獣医師の清水いと世です。
今回は、わんちゃんに必要な栄養素、亜鉛についての説明です。
亜鉛
亜鉛(元素記号Zn)は、必須微量ミネラルのひとつです。酵素反応にかかわる因子として体内の多くの場所で用いられ、細胞分裂や栄養素の代謝、皮膚の健康維持などにかかわっています。
消化、吸収、そして排泄
食事中の亜鉛は、消化されてイオン型となり、アミノ酸や硫酸などと結合します。主に小腸で吸収されますが、その利用率は、食事中のほかの成分によって異なります。
中でも植物に多く含まれるフィチン酸は、亜鉛の吸収率を減少させます。食事中にカルシウムやマグネシウムが多くても亜鉛の吸収に影響を及ぼします。
また、亜鉛の形態によっても吸収率に差がでます。吸収されなかった亜鉛や消化液として分泌された亜鉛は便から排泄されます。
生物学的機能
亜鉛は、多くの酵素の働きに必要なミネラルです。炭水化物の代謝やタンパク質の合成、細胞分裂のほか、正常な皮膚の維持や損傷の治癒、免疫力などにかかわります。
犬の亜鉛欠乏症
亜鉛が欠乏すると、発育が悪くなり、骨格の異常を生じ、免疫力が下がり、フケの多い皮膚病になります。
亜鉛欠乏は、食事中の亜鉛の不足によって生じますが、遺伝的な原因や胃腸の病気、食事中の成分によって亜鉛の吸収に問題が生じる場合もあります。
犬の亜鉛過剰症
亜鉛は毒性の低いミネラルですが、亜鉛を含む金属を誤食した犬が、胃腸炎による嘔吐や下痢、そして溶血性貧血などの症状を起こした報告があります。
食事中の亜鉛が多いと、ほかのミネラルの吸収を阻害するため、極端に多い量にならないようにしましょう。
犬の亜鉛要求量
犬猫の栄養の研究をまとめたNRC飼養標準では、亜鉛の要求量は、亜鉛の利用率と、カルシウムの必要量やフィチン酸の量を考慮して設定されています。
データが十分にないために、亜鉛の上限値は設定されていませんが、亜鉛には中毒の報告もあります。
また、多すぎる亜鉛の摂取は、銅など他のミネラルの吸収を阻害する可能性もあるため、サプリメントなどによって過剰摂取にならないようにしましょう。
亜鉛を多く含む食材
亜鉛は、私たちの食べる食材の中では、牡蠣に多く含まれていますが、市販のドッグフードでは、動物性原料由来の亜鉛以外に、亜鉛の必要量を満たすために炭酸亜鉛や酸化亜鉛のようなサプリメントを用いて補充しています。
犬の手作り食のレシピ調査では、亜鉛は、ペットフードの基準であるAAFCO養分基準の下限値を非常に下回りやすいミネラルでした。
亜鉛源として寄与していた食材は、牛肉、牛レバー、鶏レバーでしたが、亜鉛はこれらを用いても基準値を充足することが難しい栄養素です。
手作り食の際は、不足しないようにサプリメントの使用を検討しましょう。
病気との関連
亜鉛で問題となる主な病気は、不足することによる皮膚病です。
亜鉛は皮膚の正常な角化に必要であり、不足すると被毛の艶が失われ、ふけの多いゴワゴワした厚い皮膚になってしまいます。
肉球、そして口や目や肛門の周りのほか、耳や顎などに皮膚炎が生じます。赤みや腫れ程度の皮膚炎から、ただれてしまうようなひどい皮膚炎になる場合もあります。
亜鉛不足により、皮膚の正常なバリア―機能が損なわれると、細菌などの感染症を起こし、膿皮症になってしまいます。
亜鉛欠乏性の皮膚炎は、亜鉛の不足した食事によって生じますが、亜鉛の吸収を妨げるようなミネラルや繊維の多い食事によっても発症する場合があり、遺伝的に、あるいは胃腸の病気によって亜鉛の吸収が悪い場合も生じる可能性があります。
また、成長スピードの速い大型犬の子犬は、発症リスクが高まるようです。亜鉛が不足すると生じる皮膚病なので、治療は亜鉛の補充です。
食事中に必要量が含まれるようにするほか、亜鉛の吸収を妨げるような過剰なミネラルを含む食事を避けます。亜鉛の吸収に問題がある場合は、亜鉛製剤を生涯投与しなくてはいけません。
健康な皮膚を維持するためには、亜鉛だけでなく、タンパク質や必須脂肪酸、ビタミンや亜鉛以外のミネラルも必要です。栄養バランスのよいドッグフードを選びましょう。
手作り食を与える際も、脂質を過度に制限して必須脂肪酸が不足したり、カルシウムのみを添加して亜鉛の不足を助長することがないようにしましょう。
亜鉛の関連する病気ではありませんが、犬の慢性肝炎では、微量ミネラルである銅が過剰に肝臓に蓄積して肝炎を生じてしまう場合があります。この病気の治療のひとつに、銅の吸収を阻害するために、亜鉛を利用する方法があります。
皮膚病や肝臓が悪い場合は、亜鉛のサプリメントを使用する前に、現在摂取している食事中に亜鉛が不足しているのか、亜鉛の吸収を妨げるような成分が多すぎないか、栄養素量の確認が必要です。わんちゃんが病気の場合は、動物病院の先生に相談しましょう。
獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)
山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。
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