獣医師のドッグフード研究コラム
こんにちは。獣医師の清水いと世です。
今回は犬の食事に含まれる三大栄養素についてのお話をさせていただきます。
一般的に、三大栄養素とは、たんぱく質、脂質、そして糖質(炭水化物)のことです。犬の栄養では、粗タンパク質、粗脂肪、可溶性無窒素物と表されます。
ここではわかりやすいように、タンパク質、脂肪、炭水化物で話をします。
タンパク質は肉や魚に多く含まれ、筋肉など、体の構成成分になるほか、エネルギー源にもなります。
脂肪は、植物油や肉や魚の脂身に多く含まれ、細胞膜など体の成分のほか、エネルギー源にもなります。
炭水化物は、ごはんやパンに多く含まれ、効率のいいエネルギー源となります。
国民健康・栄養調査(平成28年)をもとに、比較しやすいように算出すると、私たち日本人の平均的な食事の三大栄養素の割合は、タンパク質が18%、脂肪が15%、炭水化物が67%の割合になります。
それに比べ、犬の食事の割合は、タンパク質が27%、脂肪が16%、炭水化物が57%の割合になり、私たちの食事よりタンパク質が多くて、炭水化物が少ないということになります。
犬の食事の割合については、平均的な食事として、市販のドライフードのデータから、算出しています。
環境省の出している飼い主のためのペットフード・ガイドライン(第2版)でも、同様の円グラフが、確認できます。
生き物が栄養を摂取する大きな目的は、エネルギー源の摂取と、体の成分を作るための材料の摂取です。
生命活動に必要だけど、体内で十分に合成できない栄養素は、必ず摂取しなければならない、必須栄養素となります。
では、犬に必要な三大栄養素の割合は?
残念ながら、円グラフでは表現できません。
なぜなら、炭水化物には、必要量が定められていないからです。
犬の栄養基準では、タンパク質と脂肪には必要量が定められていますが、炭水化物には定められていないため、三大栄養素の割合を円グラフで説明することはできません。
犬の栄養基準には、ペットフードの基準であるAAFCO養分基準と、犬の栄養の研究をまとめたNRC飼養標準があります。
AAFCO養分基準には、最小値(Minimum)と最大値(Maximum)があります。AAFCO養分基準(2016)では、成犬のタンパク質の最小値は、乾燥重量(DM)あたり18%、脂肪は5.5%であり、炭水化物は設定されていません。
この最小値という値は、ペットフードの原料を用いてドッグフードを作るときに、最低限含まれていなければならない量です。
NRC飼養標準(2006)には、最小要求量(MR)、適正摂取量(AI)、推奨許容量(RA)そして安全上限(SUL)があります。炭水化物の下限は、設定するための十分なデータがないために、AAFCO養分基準同様に値は定められていません。
市販のドッグフードにある保証分析値でも、炭水化物は表記がありません。
タンパク質と脂肪は、これ以上含まれているという表記(~%以上)があります。また、水分や繊維はこれ以下という表記(~%以下)があります。
つまり、必要な栄養素を含むタンパク質と脂肪は、これ以上含まれているという最小値を示すことで、品質を保証しています。
三大栄養素の割合を、人と犬で比較することは興味深いことですが、残念ながら、栄養基準で比較することはできません。そのため、今回の円グラフは、ペットフード・ガイドライン(第2版)のように「平均的な食事」により比較しました。
2018年8月に公表されたペットフード・ガイドライン(第3版)では、乾燥重量あたりのAAFCO養分基準を円グラフで表しています。
炭水化物の基準値がなく、三大栄養素の割合で表すことができないため、AAFCO養分基準そのものを円グラフにしたと考えられます。
海外の犬の研究で、三大栄養素の割合を変えた食事を犬に選択させるという実験を行いました。
この実験の報告によると、犬が選んだ食事の三大栄養素の割合は、タンパク質が48%、脂肪が41%、炭水化物が11%(報告のエネルギー%を栄養素量の割合に変換)でした。
先ほどの「平均的な食事」とは、違う結果ですね。この結果から、犬はタンパク質や脂肪の多い食事を好み、選択するようです。
では、オオカミはどうでしょう?
犬の祖先はオオカミだから、犬は肉食だと主張する話があります。また、犬は雑食性を持つように進化してきていることを証明する報告もあります。
オオカミの食性の報告では、三大栄養素の割合は、タンパク質が71%、脂肪が27%、炭水化物が2%(報告のエネルギー%を栄養素量の割合に変換)でした。
やはりオオカミは、肉食ですね。
みなさんのわんちゃんは、どのような割合のごはんを食べていますか?
保証分析値から、炭水化物の量を正確に算出することはできませんが、タンパク質や脂肪の量からおよその炭水化物の量は把握できます。
例えば、あるドッグフードの品質保証値のタンパク質が23%以上、脂肪が14%以上、エネルギー360 kcal/100 g(フード)と示されているとします。(繊維量はここでは考慮していません)
このドッグフード100 gあたり、タンパク質を23 g、脂肪を14 gとします。
これを修正アトウォーター係数を用いて、タンパク質は3.5 kcal/g、脂肪は8.5 kcal/gで計算すると、フード100 gあたり、タンパク質は81 kcal (23×3.5)、脂肪は119 kcal (14×8.5)となります。
※人の場合、三大栄養素のエネルギー量はアトウォーター係数で算出することがありますが、犬猫のフードでは、修正アトウォーター係数を用います。
ドッグフード100 gあたりの炭水化物のエネルギー量は、全エネルギー量からタンパク質と脂肪のエネルギーを引いて、160 kcal(360-81-119)になり、炭水化物(可溶性無窒素物)は3.5 kcalのエネルギーなので、このドッグフードの炭水化物量は46 g(160÷3.5)になります。
つまり、このドッグフードの三大栄養素の割合は、タンパク質28%(23÷(23+14+46)×100)、脂肪17%(14÷(23+14+46) ×100)、炭水化物55%(46÷(23+14+46) ×100)と計算することができます。
保証分析値からの算出値ですので、実際の量とは異なることが予想されますが、三大栄養素の割合を変えるだけでも、ダイエットや便秘解消などにつながることがありますので、一度チェックしてみましょう。
獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)
山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。