獣医師のドッグフード研究コラム

第3回:犬にとっての必須栄養素 ビタミンE

 

 

ビタミンEは、自然の食材に含まれていますが、その優れた抗酸化物質としての性質を利用するために、添加物としても用いられます。今回は、このビタミンEについて、少し詳しくご紹介します。

 

 

はじめに

ビタミンEは、動物の体内では合成できません。光合成生物(植物、藻類など)のみが生合成することができます。動物にとっては、必ず食物から摂り入れなければならない、必須栄養素です。

脂溶性ビタミンのため、油脂と一緒に摂取することで、消化管で油の成分を取り込む準備が進み、効率よく吸収されます。

 

 

ビタミンEのトコフェロールの構造式

 

ビタミンEには、4種のトコフェロール(α、β、γ、δ)と4種のトコトリエノール(α、β、γ、δ)があり、体内に存在するビタミンEの大部分がα-トコフェロールです。

表示法が以前のDL表示法から、今は、RS表示法に代わり、D-α-トコフェロール(天然型)は、今はRRR-α-トコフェロール、DL-α-トコフェロールは、all-rac α-トコフェロール(rac =ラセミ体)になりました。

 

ペットフードの品質基準であるAAFCO養分基準(2016)では、ビタミンEの単位はIU(国際単位)で表記されており、成犬の最小値は1,000 kcalあたり12.5 IUです。

この国際単位は、RRR-α-トコフェロールは1 mg = 1.49 IUですが、all-rac α-トコフェロール酢酸エステルは1 mg = 1 IUです。

 

 

体内での役割

α-トコフェロールは脂溶性のため、消化管からリンパ管経由で吸収された後、血液循環にのって体中に運ばれます。細胞膜など生体膜の中に分配され、膜の成分であるリン脂質の過酸化を防ぐ脂溶性抗酸化物質として作用します。

 

生体膜のリン脂質が、フリーラジカルにより酸化されて過酸化脂質に変換すると膜が弱くなり、膜としての機能も低下します。ビタミンEはフリーラジカルを捕捉するほかに、過酸化脂質の生成を防ぐ作用を行うことで、生体膜のリン脂質の酸化防止を行うとされています。

 

酸化反応は、生体内のあらゆる所で行われています。エネルギー代謝、生合成反応、天然防御機構、解毒などに関与しますが、生体膜で不必要に発生すると、膜の脆弱性をもたらします。

 

リン脂質は、脂肪酸成分の不飽和部分が多いほど酸化されやすくなるため、多価不飽和脂肪酸が生体膜に多く存在すると、酸化されやすくなります。有名な多価不飽和脂肪酸は、魚油に多く含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)があります。

 

 

犬のビタミンE必要量

犬のビタミンEの欠乏症状には、筋肉の変性や生まれてくる子犬の異常、死産、網膜の変性などが報告されています。犬のビタミンE必要量は、この欠乏症状を起こさない量や食事中の多価不飽和脂肪酸の量(ビタミンEの要求量が増す)などから決められます。

比較的毒性は低いため、安全上限量は設定されていません。

 

ビタミンEを正しく摂取できずに欠乏してしまうと、体内でのビタミンEのなすべき仕事が行われません。欠乏症を起こさないように、必要量を摂取するよう心がけましょう。

 

 

子犬がドッグフードを食べてビタミンEなどの栄養を摂取する様子

食事中での役割

ビタミンEは、植物油や胚芽、種子類に多く含まれます。植物の緑葉において、α-トコフェロールが総トコフェロールの大部分を占めますが、多くの種子にはα-トコフェロールの前駆体であるγ-トコフェロールが貯蔵型として多量に含まれています。

 

大豆油のようなトコフェロールの多い植物油の多くは、γ-トコフェロールが多く、これはα-トコフェロールのわずか0.1の生物学的活性です。生体内では、α-トコフェロールが重要なフリーラジカル補足剤であり、他のトコフェロールの生物学的活性は低いですが、食事中では、ミックストコフェロール(γとδ)の方がα-トコフェロールよりフリーラジカルを捕捉する能力は高いです。

 

食事に求められるビタミンEの量は、食事の脂肪の量、多価不飽和脂肪酸の割合、これら脂肪酸の過酸化の程度、他の抗酸化物質の存在、そしてセレンの濃度に依存します。食事中の不飽和脂肪酸は、食べるまでの加工(調理)や貯蔵の間に過酸化を受けるため、この過酸化の程度も、ビタミンE要求量の決定にかかわります。

 

トコフェロール分子の生物学的活性部位は、フェノール環の6-ヒドロキシ基であり、フリーラジカルの反応で水素を供与することができ、ここが抗酸化物質としての作用部位になります。酢酸トコフェロールは、この作用部位が変化しているため、このままでは抗酸化物質として作用できません。

 

しかし、体内に摂取後、消化吸収の段階で加水分解され、トコフェロールになるため、体内では活性を持ちます。トコフェロールと比べ、乾燥や貯蔵には強いですが、食事に添加しても、食事中で抗酸化物質としては作用しません。

 

市販ドッグフード中のビタミンEは、必要な栄養素として、また抗酸化剤として添加されています。私たちが口にする食品の重量あたりでは、植物油や小麦胚芽、種実類に多く含まれますが、犬の手作り食では、カボチャやブロッコリーがビタミンEの充足に貢献しています。

これは、重量あたりの食品中ビタミンE量より、実際に手作り食へ用いる食材(食品)量に含まれているビタミンEの量が大切だからです。

 

今日のわんちゃんのごはんのビタミンEは、足りていますか?

 

 

 

 

 

犬の写真

獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)

山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。

 

 

 

 

 

 

 

 

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