獣医師のドッグフード研究コラム
第6回:家庭内に潜む犬にとって危険な食べ物 パート2
こんにちは。獣医師の清水いと世です。
犬にとって危険な食べ物の続きです。
知らない方や忘れてしまった方はもちろん、知っている方も、再確認にご一読ください。
そして、わんちゃんのためにも周知にご協力ください。
マカダミアナッツ
原因
マカダミアナッツを食べたことによる中毒症状の報告は多いですが、その原因物質など詳細は不明です。
中毒量は、2.2~62.4 g/kgという報告がありますが、わずか0.7 g/kgのナッツで中毒になったという報告もあります。
症状
食べて12時間以内に、後ろ足の力が弱くなり、沈鬱になったり、震えたり、吐いたり、歩き方がおかしくなったり、横たわったりします。
亡くなってしまった報告はなく、一般的に48時間以内に回復します。
治療
食べて間もないなら催吐処置を行います。活性炭の投与や輸液を行うことがあり、消化管通過を速めるために下剤を投与する場合もあります。
注意点
中毒の症状は比較的軽いようで、特別な治療を行わなくても回復が望めるようです。しかし、中毒の原因物質など未解明な部分が多いため、食べた場合は動物病院に相談しましょう。
チョコレート
原因
チョコレートに含まれるメチルキサンチンによって神経や心臓の筋肉の活動異常が生じます。メチルキサンチンには、カフェイン、テオブロミン、テオフィリンといった種類があり、コーヒーやお茶にも含まれますが、チョコレートがメチルキサンチンの中毒の原因としては最多です。
他に、ガラナを含むハーブやカカオ豆殻の庭材などの誤食による中毒の報告があります。遺伝的に代謝が弱くて中毒を起こしやすい犬がいることがわかっています。
メチルキサンチンを20 mg/kg摂取することにより症状が現れ、60 mg/kgでは、発作のリスクまで生じます。LD50(半数致死量)はおよそ200から300 mg/kgです。
チョコレートの種類によって含まれるメチルキサンチンの量が異なります。ダークチョコレートの方がホワイトチョコレートよりもメチルキサンチンが多く含まれます。
5kgの体重の犬では、100 mg以上のメチルキサンチンの摂取により症状が現れる可能性があり、5 mg/g以上のテオブロミンを含むダークチョコレートなら、20 g以上の量であり、これは、手のひらサイズの板チョコ(50 g)のおよそ半分に相当します。
症状
チョコレートを食べて数時間以内に症状が始まります。
興奮して落ち着きがなくなり、吠えたりします。体温や心拍数が上がります。高血圧や不整脈、筋硬直、発作を生じるようになり、亡くなってしまうこともあります。
治療
食べて間もないなら、催吐処置や胃洗浄を行います。活性炭を投与することもあります。
集中治療が必要です。
注意点
最近は、高カカオチョコレートの人気が高く、これらは普通のチョコレートよりもテオブロミンやカフェインを多く含みます。また、チョコレート製品は、先に述べたマカダミアナッツやレーズン、アルコールと一緒になったものもあります。犬には危険な食材が組み合わさっているため、症状がひどくなる恐れがあります。
わんちゃんたちは、私たちがこっそりと美味しそうに食べていることを知っています。隠し場所を知っていることもあります。飼い主様の目を盗んで食べることのないように、ご注意ください。
キシリトール
原因
キシリトール入り製品を、犬が誤って食べてしまうことにより生じます。通常、食べ物の炭水化物は、消化分解されてブドウ糖になります。これが消化管から血管内に吸収されて血糖値が上がります。そして膵臓からインスリンが分泌され、インスリンの働きで血管内のブドウ糖は細胞に運ばれ(血糖値が下がり)、その細胞のエネルギーになります。
犬の場合、人と異なりキシリトールの吸収が速く、インスリンが多く分泌されるため、血糖値が下がりすぎて低血糖になります。わずか0.03 g/kgで生じることもあります。また、摂取量が多いと肝臓に損傷も生じます。
症状
まず、嘔吐が生じ、摂取1時間以内に(遅くても12時間以内に)低血糖になります。低血糖の程度によりますが、元気がなくなり、ふらついたり、ぐったりしたり、発作を起こしたりします。
肝臓に障害が生じると、黄疸で皮膚や白目の部分が黄色くなったり、出血が止まりにくくなるため、皮膚に青あざの出血斑が出たり胃腸出血になることもあります。
治療
食べて間もないなら、催吐処置を行います。活性炭はキシリトールとは、結合しにくいと言われています。低血糖なら、ブドウ糖の点滴が必要になります。集中治療を行うことによって、肝臓への障害は防げることもあるようです。
注意点
キシリトール入り製品は、ガムが一般的ですが、それ以外にもマウスウオッシュなどデンタルケア製品によく含まれています。犬の口内ケアのために、人の製品を用いる際はご注意ください。
キシリトール入りのガムは、多く含まれる製品では1粒に0.13 gものキシリトールが入っていることもあります。この場合、4 kgのわんちゃんが1粒誤食することで、低血糖の心配が生じます。
わんちゃんは、飼い主様が、ドライフードのような音を立てて、ガムのボトルからガムを口にほおばり、美味しそうに噛み続けているのを知っています。わんちゃんが、飼い主様に怒られないように、見てない間に、大量にまとめて食べてしまうことがないようにご注意ください。
おわりに
冒頭で述べたように、犬に危険な食べ物の話はたくさんあります。
今回挙げた食べ物は、報告が多く注意喚起が必要と考えたものをまとめました。この中には、以前は犬に与えることが問題になっていなかったものも含まれます。
犬が食べたことによる中毒報告や、研究によって危険性が確認できたことにより、今は与えることは推奨されていません。今後、危険な食材に新たに仲間入りする食材もあるかもしれません。
危険な食べ物は、食べてしまったからと言って必ず中毒を生じるとは限りません。逆に、中毒を起こすと言われている量を食べていなくても、中毒になってしまう可能性もあります。
口にしてしまった危険な食べ物は、その量だけではなく、その食べ物に含まれる中毒を起こす成分の量(濃度)、わんちゃん自体の体質や体調、一緒に食べたものの組み合わせや調理法の違いなど、さまざまな要因で症状は異なると考えられます。
量の多少や今のわんちゃんの元気さに限らず、食べた場合は、かかりつけの動物病院に相談しましょう。
犬に与えてもいいまたはダメな食べ物を調べるために、インターネットの利用は、非常に便利です。インターネットは情報を多く収集できますが、多すぎて混乱することもあります。その場合も、動物病院やペット栄養管理士など犬の食事についてアドバイスをしてくれる方に直接、相談しましょう。
獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)
山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。
- 第1回:犬の食事に含まれる三大栄養素の割合
- 第2回:犬の痒みの訴え
- 第3回:犬にとっての必須栄養素 ビタミンE
- 第4回:犬のてんかん
- 第5回:家庭内に潜む犬にとって危険な食べ物 パート1
- 第6回:家庭内に潜む犬にとって危険な食べ物 パート2
- 第7回:犬にとってのビタミンD
- 第8回:犬の食事の嵩(かさ)を増やす方法と注意点
- 第9回:犬にとってのビタミンK
- 第10回:犬が酵素を取り入れることの意味
- 第11回:犬にとってのビタミンA
- 第12回:犬と乳酸菌
- 第13回:犬にオリゴ糖を与えて期待できること
- 第14回:犬の熱中症の怖さと対策方法
- 第15回:愛犬の食欲が少し落ちたときにできること
- 第16回:犬に必要な栄養素 チアミン(ビタミンB1)
- 第17回:ドッグフードを変えると同じカロリーでも太っちゃうわんちゃんへ
- 第18回:犬の心臓病 うっ血性心不全
- 第19回:犬に必要な栄養素 リボフラビン(ビタミンB2)
- 第20回:犬の胆泥症 <前編>
- 第21回:犬の胆泥症 <後編>
- 第22回:犬に必要な栄養素 ナイアシン(ビタミンB3)
- 第23回:犬にグルテンフリーの食事は必要ですか?
- 第24回:犬に必要な栄養素 - ビタミンB6 –
- 第25回:犬に穀物は必要?
- 第26回:犬に必要な栄養素 -パントテン酸(VB5)-
- 第27回:ドッグフードと犬の拡張型心筋症の関係
- 第28回:犬に必要な栄養素 – 葉酸(ビタミンB9) –
- 第29回:犬に必要な栄養素 – ビタミンB12 –
- 第30回:ドッグフードがない!そんな時のドッグフード代わりの今日だけ手作り食
- 第31回:犬に必要な栄養素 – コリン –
- 第32回:犬に必要な栄養素 カルシウム(Ca)
- 第33回:犬のストレス
- 第34回:犬の尿路結石 -前編-
- 第35回:犬の尿路結石 -後編-
- 第36回:犬の日光浴
- 第37回:犬に必要な栄養素 リン(P)
- 第38回:犬のよだれが多いとき
- 第39回:犬に必要な栄養素 マグネシウム(Mg)
- 第40回:犬に必要な栄養素 -ナトリウム(Na)と塩素(Cl)-
- 第41回:犬に必要な栄養素 -カリウム(K)-
- 第42回:犬に必要な栄養素 -鉄(Fe)-
- 第43回:犬に与えていい食材と危険な食材について
- 第44回:犬に必要な栄養素 -銅(Cu)-
- 第45回:犬に必要な栄養素 - 亜鉛(Zn)-
- 第46回:犬に必要な栄養素 - マンガン(Mn)-
- 第47回:犬に必要な栄養素 - セレン (Se) –
- 第48回:犬に必要な栄養素 - ヨウ素(I)-
- 第49回:犬の血液検査項目 ‐ ALT(GPT)‐
- 第50回:犬の血液検査項目 -BUN(血中尿素窒素)-
- 第51回:犬の血液検査項目 -AST(GOT)-
- 第52回:犬の血液検査項目 -Cre(クレアチニン)-
- 第53回:犬の血液検査項目 -Ca(カルシウム)-
- 第54回:犬の血液検査項目 -GLU(グルコース・血糖値)-
- 第55回:犬の血液検査項目 - P(リン)-








