獣医師のドッグフード研究コラム
第13回:犬にオリゴ糖を与えて期待できること
こんにちは。獣医師の清水いと世です。
今回は、オリゴ糖についてのお話をさせていただきます。
オリゴ糖とは
オリゴ糖は、英語では、Oligosaccharideといい、Oligoが少ない、Saccharideが糖類ですので、少糖類ともいいます。単糖類のグルコース(ブドウ糖)やフルクトース(果糖)などが少しだけ結合した構造ということです。
二糖類から、オリゴ糖に含めることもあるため、この場合、二糖類である砂糖や乳糖もオリゴ糖になります。
犬猫のNRC飼養標準では、オリゴ糖は単糖類が3から10個、結合したものとしています。
単糖類がさらに多く結合したものが多糖類で、でんぷんで有名なアミロースやアミロペクチン、食物繊維で有名なセルロースなどがあります。
オリゴ糖には、その結合の違いによって、動物の消化酵素で分解できるタイプ(マルトトリオースなど)と、分解できない(分解されにくい)タイプ(フラクトオリゴ糖など)があります。
後者は、非(難)消化性オリゴ糖と呼ばれ、動物が摂取しても消化分解されずに大腸まで到達し、腸内細菌が出す酵素によって分解、発酵され、酪酸などの短鎖脂肪酸を生成します。整腸作用が期待されるオリゴ糖は通常、この非(難)消化性オリゴ糖です。
一般的に、オリゴ糖とは、普通の単糖類であるグルコースやフルクトースが結合した構造で、グルコースの結合していくグルコオリゴ糖やグルコースにフルクトースが結合していくフラクトオリゴ糖が有名です。
また、普通とは少し変わった構造の単糖類が結合したオリゴ糖もあります。例えば、単糖類のグルコースの構造が少し変化したN-アセチルグルコサミンが結合していくオリゴ糖が、キトサンオリゴ糖です。
オリゴ糖の機能
ラットの実験や人に対する作用の研究では、オリゴ糖摂取により、ビフィズス菌の増殖をはじめとした整腸作用の他、血中脂質改善、抗う蝕性、免疫賦活作用、血糖値調節作用、肝機能改善、アトピー性皮膚炎改善など、多くの作用が報告されています。
オリゴ糖の機能の中でよく期待されているのが整腸作用であり、大腸の腸内細菌叢を変えるためには、オリゴ糖など発酵性繊維の利用が有効です。
整腸作用を持つオリゴ糖を摂取することによって、善玉菌であるビフィズス菌や乳酸菌、酪酸菌が増えて大腸の細菌叢を改善するだけでなく、小腸の細菌叢へも作用することが報告されています。
ビフィズス菌増殖作用には、ラクトスクロース、ラフィノース、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖などがあります。
発酵によって生じた酪酸は、犬の大腸の細胞にとってエネルギー源であり、細胞の増殖や代謝などにかかわり、大腸だけでなく小腸の炎症への効果も期待されています。
また、酪酸は大腸がんの細胞増殖を抑制するという報告もあります。犬は年を取るにつれて、腸内細菌叢が変化し、善玉菌が減り、悪玉菌が増え、酪酸の産生菌も低下すると報告されています。
このような場合、プロバイオティクスである乳酸菌製剤が用いられることが多いですが、善玉菌の食事となるオリゴ糖のようなプレバイオティクスは、腸内細菌叢をより改善させるために、併用されることもあります。
犬への効果
犬のオリゴ糖摂取には以下のような効果が報告されています。
ガラクトオリゴ糖摂取による便秘の改善、フラクトオリゴ糖による大腸の血流増加や細胞の増殖、小腸内細菌異常増殖の改善、小腸粘膜増加、酪酸の産生増加、ラフィノースによる腸内環境の改善、キトサンオリゴ糖によるビフィズス菌増加、酸性キシロオリゴ糖によるアトピー性皮膚炎の改善の症例報告、マンナンオリゴ糖による全身性の免疫増加と腸の局所免疫増加、ラクトスクロースによるビフィズス菌増加、便の腐敗化合物(アンモニア、インドール、スカトールなど)の濃度減少などが報告されています。
オリゴ糖には、同じ研究でも、免疫機能が増加した場合と変わらない場合があり、動物の年齢や健康状態によって効果が変わるのではないかと考えられています。上記効果は、すべての犬に同様に認められるとは限りません。
犬とオリゴ糖
自然に存在する多糖類には、有効に利用されていない植物資源もあり、これらの研究により、多くのオリゴ糖が開発されました。
「オリゴ糖」といっても、多くの種類や機能があります。
わんちゃんのドッグフードにオリゴ糖は含まれていますか?
含まれているオリゴ糖はどのような種類で、どのような機能が期待されていますか?
研究や報告の多いオリゴ糖もあれば、そうでないオリゴ糖もあります。また、人を対象としたオリゴ糖の情報は多いですが、わんちゃんに対する情報は限られています。わんちゃんに人と同様の効果が期待できるかはわかりません。また、人とは異なる作用が出ることも考えられます。
タンパク質の多い食事など、ドッグフードの内容によっては、その分解物が悪臭を放つことがあります。おならの多い、またはおならの臭いわんちゃん、お腹がゴロゴロしているわんちゃんは、オリゴ糖を追加するのも方法ですが、ドッグフードの内容を見直し、変更するのも方法です。
整腸作用があるオリゴ糖の場合でも、多量に摂取すれば、またはわんちゃんそれぞれの体質やその日の状態によっては、定められた量であっても、下痢などになることもあります。不調を認めた場合は、動物病院に相談しましょう。
獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)
山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。
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