獣医師のドッグフード研究コラム
みなさん、獣医師の清水いと世です。
今回は、犬のダイエットに関するお話です。
ドッグフードを変更したとき、以前のドッグフードと同じ量を与えていいのか、確認が必要です。
例えば、ドッグフード100 g(グラム)あたり350 kcal(キロカロリー)のドッグフード製品Aと、100 gあたり400 kcalのドッグフード製品Bの場合。AからBに変更したけど、以前も今回も同じ100 gを与えていては、50 kcal多く与えることになり、太ってしまいます。
ドッグフードは、同じ重量(グラム)でも、エネルギー量(カロリー)が同じとは限りません。
また、カップで分量を量っている人も注意しましょう。
重量あたりのカロリーが同じでも、ドライフードの粒の大きさやその中に含まれる空気によって嵩が増え、体積(カップの量)は違うことがあります。
例えば、ドッグフード100 gあたり、どちらも450 kcalのドッグフード製品CとDがあっても、Cは1カップ100 gで、Dは1カップ150 gも入ることがあります。
この場合、CからDのフードに変更したのに同じ1カップを与えていては、50 g多く与えてしまい、太ってしまいます。
今回は、さらに困った問題。
ドッグフードを変更して同じカロリーを与えているのに、太っちゃうわんちゃんについて。
考えられる原因を挙げました。
あきらめずに、一緒にダイエットしましょう!
同じシリーズの製品であれば、基本的にカロリーの計算方法が違うことはありませんが、異なるシリーズの製品であれば、計算方法が違うかもしれません。
犬の食事のカロリー算出には、実際に測定したり、計算で求めたりと、いくつかの方法があります。
計算によってカロリーの推定値を算出する方法は、通常、ペットフードに用いる修正アトウォーター係数を用いて計算します。
これは、ドッグフードに含まれる炭水化物(可溶性無窒素物)のグラムに3.5、タンパク質のグラムに3.5、そして脂肪のグラムに8.5を掛け、そのすべてを合計してカロリーを算出します。
この方法と異なり、ドッグフードに含まれる炭水化物(可溶性無窒素物)のグラムに4、タンパク質のグラムに4、脂肪のグラムに9を掛け、合計してカロリーを算出すると、先ほどの計算方法で得た値より、およそ、1割ほど差が出てしまいます。
このようなフードカロリーの算出方法の違いにより、同じカロリーを与えていても、フード変更によって今までより太ってしまうことがあります。
栄養素の中でカロリーに影響するのは、上記でも示した、炭水化物とタンパク質と脂肪の三大栄養素です。
同じカロリーでも、三大栄養素の中で脂肪の割合の多い食事では、太ることがあります。
ドッグフードの変更によって、そのわんちゃんにとって太りやすい割合のドッグフードだった場合、カロリーが同じでも太ってしまいます。
わんちゃんがドッグフードから栄養素やエネルギーを得るためには、そのわんちゃんの消化管でドッグフードを消化して体内に吸収しなくてはいけません。
加工(調理)方法によって、そのドッグフードの消化に違いが出てきます。
炭水化物(糖質)は、加工によって消化性が増しますが、同時に加工する他の食材成分によって消化しにくいタイプになることもあります。
また、食物繊維によって消化吸収に差が生じることもあります。
加工方法や食物繊維などによって、消化吸収量が変われば、カロリー摂取量も変わるため、太ってしまうことがあります。
食物繊維や脂肪酸の種類には、肥満を抑制する作用を持つものがあり、ドッグフードには、このような機能性成分を加えていることがあります。これら成分を含むドッグフードから、含まないフードに変更すれば、同じカロリーでも太ってしまうかもしれません。
最近では、腸内細菌と肥満の関連も指摘されています。その一つに腸内細菌によって産生された成分によるエネルギー代謝への関与があります。
ドッグフードの内容によってエネルギー代謝を増すことができない、あるいは抑えることにかかわる腸内細菌が増えるのであれば、太ってしまうかもしれません。
カロリーとは関係のない、他の栄養素量によっても体重に影響が出ます。ビタミンの不足では糖質や脂質の代謝がうまく回らなくなります。
また、少し「太る」とは異なりますが、味付けの濃い食事でむくんでしまうと体重は増えますが、もちろんこれは脂肪が増えた「太る」ではありません。
これは、ドッグフードではなく別の原因によって体重が増減した時期が、ドッグフードの変更時期と重なっただけの場合です。
例えば、梅雨や冬の時期、発情期や避妊・去勢手術後など、運動量の減少や代謝が低下するような時期やイベント後には、体重が増えやすくなります。
この時期とドッグフードの変更時期が重なった場合、ドッグフードが原因で太ったとは限りません。
カロリー計算は目安です。これ以上食べていて痩せることもあれば、これ以下で太ることもあります。
わんちゃんの健康管理のためにも、カロリー計算を行って給餌量を決めるのはとても大切です。でも、その値にこだわらず、わんちゃんも見ながら食事量は決めましょう。
また、ドッグフードを変更して間もない時期は、体重が安定しないことが考えられます。ドッグフードによっては、数か月必要なこともあります。
1日1日の体重測定で一喜一憂することなく、長いスパンで体重管理を行いましょう。
ドッグフードを変更して、以前のドッグフードと同じカロリーになるように量を量って与えていても太っちゃうわんちゃんへ。
「そのドッグフードとも相性抜群なの!」と、飼い主様へお伝えください!
獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)
山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。