獣医師のドッグフード研究コラム

第37回:犬に必要な栄養素 リン(P)

 

 

こんにちは。獣医師の清水いと世です。
今回は、わんちゃんに必要な栄養素、リンについて説明します。

 

 

リンとは

リンは、カルシウムの次に多いミネラルで、元素記号はPで表されます。カルシウムと同様に、体内で最も多く存在している場所は骨です。このほか、筋肉にも多く含まれています。

 

リンは、ハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウムの一種)の形で骨や歯を構成しています。また、リン脂質として細胞膜の構成成分でもあり、DNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)、ATP(アデノシン三リン酸)にも含まれます。

 

 

消化、吸収、そして排泄

犬の食事中リンの吸収に関する研究では、食事中のカルシウム濃度が多いとリンの吸収率は下がることがわかっています。また、植物にはフィチン酸という形でリンが多く含まれていますが、犬はこのフィチン酸を消化することがあまり得意ではありません。

 

体内のリン濃度は、上皮小体ホルモンやビタミンDによって調節されています。リンが少ないときは、腸のリン吸収を増やし、腎臓(尿へ)のリン排泄を減らし、骨を溶かしてリンを供給します。リンが多いときは逆に作用し、リンを減らすように働きます。

 

 

生物学的機能

骨や歯は、ハイドロキシアパタイトとして、リンやカルシウムの貯蔵庫としての役割があります。リンはATPにも含まれ、高エネルギーリン酸化合物としてエネルギーの受け渡しにかかわっています。また、リンはリン酸イオンとして、体のアシドーシスやアルカローシスのような酸-塩基バランスを調節する役割もあります。

 

 

犬のリン欠乏症

犬のリン欠乏症では、元気や食欲がなくなり、あまり成長できず、足の骨の変形を生じてしまうことがあります。

 

 

犬のリン要求量

リンの吸収率は、カルシウムのようなミネラルやフィチン酸の存在によって変わってきます。
犬の食事中リンの必要量は、リンやカルシウム、フィチン酸の量を変えた食事の研究などから決められています。

 

 

犬のリン過剰症

犬のリン過剰症は、リンが過剰でカルシウムが不足した、カルシウムとリン比のバランスの崩れた食事によって生じた報告に基づいています。

 

このような食事では、栄養性二次性上皮小体機能亢進症という病気になってしまいます。これは、食事が原因で二次的に上皮小体(副甲状腺)ホルモンが過剰に分泌されてしまい、骨の変形や骨折が生じることもあります。

 

 

リンを多く含む食材

植物性の食材では、リンは主にフィチン酸として存在しています。動物性の食材では、肉に多く含まれていますが、骨にはさらに多く含まれています。

 

国内の犬の手作り食の調査では、半数近くのレシピがドッグフードの基準であるAAFCO養分基準のリンの最小量を下回っていました。充足していたレシピの中で、リンの量に貢献していた食材は鶏肉や豚肉など肉類が上位を占めていました。骨付き肉を使ったレシピでは、AAFCO養分基準のリンの最大量を上回ることがあり、骨ごと与える場合には、リンが過剰にならないようにしましょう。

 

 

病気との関連

食事中のリン量を考慮すべき代表的な病気が、慢性腎疾患です。

 

慢性腎疾患では、腎機能が落ちてしまうために、腎臓の仕事である、尿への老廃物やミネラルの排泄などが上手くいかなくなってしまいます。また、腎臓には、赤血球を作る命令を出すホルモン分泌の役割もあります。腎機能が落ちると、この作用も損なわれるため、貧血も生じてしまいます。

 

慢性腎疾患では、血液中のリンが高くなってしまうことがよくあります。この高リン血症は腎疾患を悪化させるため、正常なリンの濃度になるように治療を行わなければいけません。

 

リンの多い食事は慢性腎疾患の進行を速めてしまいますが、リンを制限することによって、進行を遅らせ、症状を改善し、生存期間が延びた報告があります。このため、食事中のリンは、最低限必要な量に留める配慮が求められます。腎疾患の進行の程度によっては、AAFCO養分基準の最小量を下回る、より厳しくリンを制限した食事が必要になることもあります。また、食事のみでのリンのコントロールが難しい場合は、リン吸着剤を使用して、体内に吸収されるリンが減るようにします。

 

慢性腎疾患時のリンの管理は、血液検査で高リン血症を確認したうえで行います。腎臓が悪いからと言って、勝手に慢性腎疾患用の療法食やリン吸着剤を使用せず、主治医の先生の指示を必ず仰ぎましょう。動物病院での検査は、投薬の効果や腎疾患進行の確認にはもちろんのこと、食事管理の効果を確認するうえでも、重要です。わんちゃんが慢性腎疾患の場合は、定期的に血液検査などを実施し、より良い食事管理を行いましょう。

 

リンも大切な必須栄養素です。病気悪化の原因になるからと言って、異常がないのに制限してはいけません。体内に入ってくるリンが少なく、リンの不足が生じると、貯蔵庫である骨からリンを動員してしまうかもしれません。

 

わんちゃんの食事や病気で心配なことがあれば、かかりつけの動物病院で相談しましょう。

 

 

 

 

 

 

 

犬の写真

獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)

山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。

 

 

 

 

 

 

 

国産・無添加のドッグフードPERORIはこちらから

 

 

 

 

 

 

 

 


ページトップへ