獣医師のドッグフード研究コラム
第44回:犬に必要な栄養素 -銅(Cu)-
こんにちは。獣医師の清水いと世です。
今回は、わんちゃんに必要な栄養素、銅についての説明です。
銅
銅(元素記号Cu)は、栄養素としての必要な量がとても少ない、必須微量ミネラルのひとつです。体内では、その大部分が肝臓のメタロチオネインと結合しています。
消化、吸収、そして排泄
食事中の銅は、主に小腸から体内に吸収され、肝臓に運ばれ貯蔵されます。貯蔵量が増えると、腸のメタロチオネインの合成量を増やし、そこで結合して腸のターンオーバーとともに排泄されたり、胆汁から排泄量を増やして調節されます。
食事中に過剰な亜鉛や鉄、フィチン酸があると、銅の利用率は下がってしまいます。
生物学的機能
銅は酸化反応にかかわり、結合組織の形成、鉄の代謝、被毛の色、神経機能やエネルギー代謝など多くの反応に必要なミネラルです。
犬の銅欠乏症
銅が欠乏すると、上記の機能が損なわれるため、骨の異常や子犬の成長不良が生じたり、貧血になったり、被毛の色が薄くなったり、神経や筋肉の異常を生じてしまいます。
銅の不足する要因には、食事中に銅が少ない場合以外にも、利用率の悪い銅源(利用率の悪い銅のサプリメントや食材)や銅の利用率を下げてしまう栄養素(亜鉛、鉄、フィチン酸など)の存在があります。成長期のように銅の要求量が高まるような時は、不足の影響が出やすくなります。
犬の銅過剰症
極端に多い銅を与えると嘔吐や命にかかわる中毒症状が起こってしまいます。通常の食事でこのようなことが起こることはありませんが、サプリメントのように銅を多く含む製品を誤食しないように注意しましょう。
ベドリントンテリアのような一部の犬種では、肝臓に銅が過剰蓄積してしまう遺伝性の病気のあることがわかっています。銅の少ない食事や内服薬による治療が必要になります。
このほか、ウエストハイランドホワイトテリアも同様の症状を示す場合があり、また、ラブラドールレトリバーなどでは慢性肝炎の一因に銅の蓄積が疑われています。
多すぎる銅は、他のミネラルの利用性を下げてしまうだけでなく、肝臓に蓄積されるミネラルであり、肝臓への影響も心配です。
犬の銅要求量
子犬や母犬のミネラル要求量や銅欠乏症の研究より、犬の食事中銅の要求量は決められています。安全上限量は十分なデータがないため、犬猫の栄養の研究をまとめているNRC飼養標準では定められていません。
市販ペットフードの基準であるAAFCO養分基準では、以前は最大値が設定されていましたが、現在は最低限含めないといけない最小値のみ定められています。
最大の基準値(上限)がないからといって、大量に与えていい(ドッグフードに含めていい)というわけではありません。
銅を多く含む食材
ドッグフードの原料では、穀物のふすまや胚芽部分に多く含まれています。レバーにも多く含まれていますが、種類によっては利用率が悪いという報告もあり、ドッグフードにはサプリメントとして添加される場合もあります。
AAFCO養分基準では、酸化銅は利用率が悪いために、銅源として利用しないように示されています。
犬の手作り食のレシピ調査では、多くのレシピではAAFCO養分基準より少ない銅の量でした。銅源として貢献していた食材は、牛レバーや大豆製品などでしたが、牛レバーの銅含量は多いため、大量の牛レバーを長期に使用することがないように注意しましょう。
病気との関連
ベドリントンテリアは、銅を輸送するタンパク質であるセルロプラスミンの不足によって、肝臓に銅が蓄積してしまう遺伝的な病気を持っている場合があります。
肝臓の細胞に酸化障害が生じ、慢性肝炎から肝硬変へと病気が進行してしまいます。
この肝臓への中毒レベルの銅蓄積によって、治療を行わなければ5歳前後で亡くなってしまいます。
肝臓への銅蓄積の上記遺伝的な原因以外には、銅の代謝に異常を起こすような肝臓の病気や、過剰にそして長期に銅を摂取してしまった場合が考えられますが、食事(摂取量)の問題が重要だといわれています。
銅蓄積による肝障害の治療には、銅を排泄させるような薬や銅含量の低い食事があります。
また、亜鉛を投与して銅の体内取り込みを制限したり、ビタミンEのような抗酸化物質の投与を行う場合もあります。
肝臓は、薬だけでなく食事やサプリメントの成分を代謝、処理する臓器です。肝臓への銅蓄積がひどい場合、使用を控えた方がいいタイプの抗酸化物質もあります。摂取する銅を制限しすぎて不足する場合もあります。肝疾患時の食事やサプリメントの相談は、必ず、かかりつけの動物病院で行いましょう。
療法食で利用できる銅制限食は、肝疾患時の製品のため、タンパク質量も制限されています。銅蓄積症による肝障害時は、必ずしもタンパク質の制限が必要とは限らず、肝疾患の程度によっては、十分量のタンパク質が必要な場合もあります。
目的とする市販の療法食がない場合は、手作り食などを利用することになりますが、銅やタンパク質量だけでなく、他の栄養素量も過不足ないように栄養素量の計算が必要です。
病気の場合は、どの栄養素をどの程度増減すべきか、動物病院の先生に相談してください。
獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)
山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。
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