獣医師のドッグフード研究コラム
こんにちは。獣医師の清水いと世です。
今回は、わんちゃんに必要な栄養素のビタミンB2、別名リボフラビンについて説明します。
ビタミンB2の化学名です。
補酵素のフラビンモノヌクレオチド(FMN)やフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)の前駆物質です。
食べ物のリボフラビンのほとんどは、FMNやFADの補酵素型として存在しています。これらは腸で加水分解された後、上部消化管から吸収されます。体内のリボフラビンが不足しているとき、体は取り込みを増加させて対応し、要求量を超えると低下させます。
腸から吸収されたリボフラビンは、必要とされる組織に運ばれ、そこでFMNに、さらにFADに変化し補酵素として働きます。
体からリボフラビンを排泄する主な経路は、尿路です。過剰に存在すると、尿から排泄されていきます。
リボフラビンの主な機能は、FMNとFADの形で補酵素として作用することです。
細胞内ではさまざまな化学反応が起こっています。酵素は、この化学反応のスピードを速めるためのタンパク質で、自身は変化せずに触媒として作用します。酵素の中には、それ自身では触媒として作用できず、補酵素を必要とするものがあります。ビタミンにはこの補酵素として活躍するものが多くあり、リボフラビンもそのひとつです。
リボフラビンの補酵素型であるFADは、この化学反応で水素の受け渡しを行い、FADH2と表されることがありますが、これは、水素(H)を受け取ったFADのことです。
例えば、デヒドロゲナーゼ(脱水素酵素)という酵素が作用するためは、FADのような補酵素が必要です。
リボフラビンは、ビタミンの代謝などでも補酵素として作用しますが、ブドウ糖からエネルギーを得る反応(TCAサイクル、電子伝達系)や脂肪酸からエネルギーを得るβ酸化のようなエネルギー代謝で重要な役割があります。
他にも、多くの酸化-還元酵素の補酵素として作用し、グルタチオンの再生にもかかわっています。
グルタチオンは、グルタミン酸とシステインとグリシンという3つのアミノ酸によって構成されていて、細胞内で抗酸化作用を示します。タチオンという名称で医薬品としても使用され、飲み薬や目薬があるのをご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
呼吸によって取り込まれた酸素の一部は、活性酸素種となって細胞を酸化して傷つけてしまいます。これを防ぐ抗酸化作用を持つ物質のひとつがグルタチオンです。
グルタチオン自身が酸化されることによって、細胞の酸化を防ぎます。酸化されたグルタチオンの回復には、グルタチオン還元酵素(グルタチオンレダクターゼ)が必要ですが、ここで補酵素のFADが活躍します。
回復したグルタチオンは、再び、抗酸化作用を発揮してくれます。
ラットを用いた研究では、リボフラビン欠乏により生じた過酸化脂質が口腔粘膜の病変を生じたと考えられ、リボフラビンは皮膚や粘膜、髄鞘(神経の一部)の維持に大切です。
犬も私たち人間も、毎日の食べ物からエネルギーを得るために、そして、体内で発生している酸化ストレスから体を守るためにも、リボフラビンは必要です。
犬では、リボフラビンが欠乏すると、上記したリボフラビンの機能が行えなくなるため、エネルギー生成や活性酸素に対する対応がうまくいかなくなります。
そのため、元気や食欲がなくなります。虚脱というぐったりする症状を起こすこともあります。
また、過酸化脂質などが増え、細胞への毒性が増すため、皮膚や粘膜が傷害されると、皮膚病や涙や目やにの多い結膜炎を生じます。
通常、リボフラビンが単独で欠乏することはありませんが、リボフラビンが欠乏するような栄養状態は、他の栄養素も不足していると考えられ、食事のバランスや量を見直さなくてはいけません。
犬にリボフラビン量の違う食事を与えたときの症状や赤血球中のグルタチオン還元酵素(グルタチオンレダクターゼ)活性を測定した研究によって、リボフラビンの要求量は決められています。
チアミンと異なり、食事中の糖質や脂肪量の違いによって、リボフラビン要求量に違いはなかったと報告されています。
リボフラビンは、経口摂取よりも注射のような非経口的な投与によって、毒性が生じると言われています。犬へのリボフラビンの過剰摂取の研究では、用いた投与量による異常を認めておらず、犬の食事中リボフラビンの安全上限量は定められていません。
リボフラビンとその補酵素型は、光の存在下でアルカリ性の状態にあると、分解されてしまい、生物学的に不活性になります。ドッグフードは適切に保存しましょう。
動物性の食材は、リボフラビンを多く含みます。
国内の犬の手作り食の調査では、リボフラビンの充足に貢献していた食材は、卵、レバー、豚肉でした。
適切に保存された総合栄養食のドッグフードには、リボフラビンが十分に含まれていると考えられますが、手作り食のときには不足することもある栄養素なので、多く含まれる食材も考慮しながら、バランスの良い食事になるように心がけましょう。
獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)
山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。