獣医師のドッグフード研究コラム
第24回:犬に必要な栄養素 - ビタミンB6 –
こんにちは。獣医師の清水いと世です。
今回は、わんちゃんに必要な栄養素、ビタミンB6(ピリドキシン)について説明します。
ビタミンB6とは
水溶性のビタミンです。
ビタミンB6として活性を示す化合物には、ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミン、そしてこれらリン酸化型があります。
酵素に結合して体内の反応を進める補酵素として主に働き、特にアミノ酸の代謝にかかわっています。
消化、吸収、そして排泄
食事中のビタミンB6は、動物性では主にピリドキサールとピリドキサミン、植物性ではピリドキシンとピリドキサミンです。植物性の食べ物の中には、リン酸化型とグリコシル化型のビタミンB6が含まれていますが、後者はあまり利用できません。食事中のビタミンB6のリン酸化型は加水分解された後、受動拡散で小腸から吸収されます。
ビタミンB6は主に肝臓で代謝されます。そこで合成されたリン酸化型は、血中に放出されるとタンパク質と結合してさまざまな組織に運ばれ、細胞内に取り込まれていきます。
ビタミンB6の最終代謝産物はピリドキシン酸で、これは尿に排泄されます。ビタミンB6が不足していないかどうかの指標になります。
生物学的機能
ビタミンB6の補酵素型であるピリドキサール-5’-リン酸(PLP)は、100種類以上の酵素反応にかかわっています。特にアミノ酸の合成や分解に重要な役割があります。
その代表はアミノ基転移反応です。肝臓の血液検査項目でもあるアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT、GPT)はアミノ基転移酵素のひとつで、アラニンのアミノ基を転移させる酵素(トランスフェラーゼ)です。ここに、補酵素としてビタミンB6が必要です。
グルコース(単糖類)は、肝臓でグリコーゲンというグルコースが結合した多糖類の形で蓄えられています。グリコーゲンを再びグルコースにするとき、グリコーゲンホスホリラーゼという酵素で分解されます。このグリコーゲンの代謝や糖新生にもビタミンB6は補酵素として作用します。
また、ヘモグロビンの材料であるヘムになる物質の合成の他、トリプトファンからのナイアシン合成や、セロトニンやドーパミン、アドレナリンそしてヒスタミンのような神経伝達物質の合成、そしてタウリンやカルニチンを合成する経路にもビタミンB6は必要です。
このようにさまざまな酵素反応の補酵素としてビタミンB6は重要であり、不足してこれら作用が行えなくなると、アミノ酸代謝の異常が生じるだけでなく、糖新生にも問題が生じ、また貧血や神経系の異常を起こしてしまいます。
犬のビタミンB6欠乏症
犬のビタミンB6欠乏症では、食欲不振や体重減少のほか、けいれんなどの神経症状や小球性低色素性貧血が生じることが報告されています。また、心臓の拡張や肥大などの問題が生じることもあります。
猫でも欠乏によって貧血やてんかん発作が生じるほか、シュウ酸カルシウム尿路結石による腎障害も報告されています。
犬のビタミンB6要求量
犬のビタミンB6の必要量は、上記した欠乏症を起こさない量から決められています。
猫ではシュウ酸の尿排泄も考慮して必要量は定められており、犬より多い量になっています。
人では生まれつきシュウ酸を過剰に体内で作り出してしまい腎結石を生じる病気があり、ビタミンB6が処方されることがあります。
犬でも同様の病気の報告はありますが、通常の血液検査や尿検査ではわかりません。
シュウ酸カルシウム尿石症の犬にビタミンB6が処方されることがありますが、効果には限界があるようです。
犬のビタミンB6過剰症
ビタミンB6の中毒を生じることはほとんどありませんが、高用量のピリドキシンによって神経の変性が生じ、歩けなくなったり、けいれんを起こした報告があります。しかし、一般的な食材に含まれる量で中毒症状を起こすことは通常ありません。
日本人の食事摂取基準では、耐容上限量が定められていますが、犬のNRC飼養標準では安全上限濃度は定められていません。
安定性
ビタミンB6は光に対して不安定ですので、ドッグフードは適切に保存しましょう。
ビタミンB6を多く含む食材
ビタミンB6は、さまざまな食べ物に存在し、肉や魚、レバーのほか、豆類にも多く含まれています。
国内の犬の手作り食のレシピ調査では、ビタミンB6の不足しているレシピはほとんどありませんでした。充足できていたレシピで、ビタミンB6の充足に貢献していた食材は、鶏肉、豚肉、牛肉のような畜肉でした。
ドッグフードでも手作り食でも食欲不振や偏食が続くとき、病気があるときは他のビタミンとともに不足する可能性があるため、注意が必要です。
自然の食材に含まれている量で中毒を起こす心配はないと考えられますが、ビタミン剤のようにビタミンB6を高濃度に含む製品を誤食することがないように注意しましょう。
ビタミンB6は、最近ではがんを抑制する作用を持つことがわかってきています。猫の乳がん細胞を用いた実験では、乳がん細胞の増殖が抑制され、その細胞がアポトーシス(細胞死)のような形に変化したことが報告されています。
ビタミンB6は、補酵素としてだけでなく新たな作用の解明もあり、期待されるビタミンです。
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獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)
山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。
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