獣医師のドッグフード研究コラム

第28回:犬に必要な栄養素 – 葉酸(ビタミンB9) –

 

 

こんにちは。獣医師の清水いと世です。
今回は、わんちゃんに必要な栄養素、葉酸(ビタミンB9)について説明します。

 

 

葉酸とは

葉酸は、水溶性ビタミンです。プテロイルモノグルタミン酸とも呼ばれ、p-アミノ安息香酸にプテリンとグルタミン酸が結合した構造です。グルタミン酸がひとつ(モノ)なのでモノグルタミン酸です。

 

天然に存在する葉酸は、このグルタミン酸が複数結合しています。グルタミン酸が複数(ポリ)なので、プテロイルポリグルタミン酸です。

 

葉酸は、ヒトでは巨赤芽球性貧血の治療に必要な栄養素であり、また、胎児の神経管閉塞障害のリスク軽減のために摂取が推奨されているビタミンです。

 

 

消化、吸収、そして排泄

食材中の葉酸の多くは、プテロイルポリグルタミン酸の誘導体として存在しています。

 

腸管内で加水分解され、ひとつのグルタミン酸が結合した形であるプテロイルモノグルタミン酸になります。担体輸送で吸収されますが、高濃度の場合は拡散によって吸収されます。

 

主な吸収部位は、小腸です。腸の細胞内で5-メチルテトラヒドロ葉酸になります。吸収されて門脈経由で肝臓に入ると、一部はポリグルタミン酸の誘導体として保持されます。

 

血中ではタンパク質に結合して輸送される他、赤血球にも多く含まれています。組織中ではポリグルタミン酸の形で蓄積されます。

 

 

生物学的機能

葉酸は、補酵素として作用しますが、その補酵素活性を持つためには、テトラヒドロ型への還元とポリグルタミン酸型に伸長する必要があります。

 

葉酸の機能は主に、アミノ酸代謝、ヌクレオチド代謝にかかわり、メチル基などの転移を行っています。

 

アミノ酸代謝では、セリンとグリシン間の炭素化合物の受け渡しなどを行い、ヌクレオチド代謝では、チミンのもととなる物質やプリン体など核酸の合成にかかわっています。葉酸が不足してこれら核酸が合成できないと、造血組織の骨髄に影響が及び、巨赤芽球性貧血になります。

 

また、葉酸はビタミンB12とともに、ホモシステインからメチオニンを作ります。ヒトでは葉酸不足になると、上記貧血や胎児の神経管閉鎖障害のほか、このホモシステインが増加し動脈硬化のリスクが高まります。

 

 

犬の葉酸欠乏症

精製食を与えた犬に生じたヘモグロビンの減少が葉酸の注射によって回復した報告があります。

 

人では葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血が有名ですが、犬では血中の葉酸やコバラミンの減少と貧血との関係がなかったという報告があります。葉酸欠乏した子犬では食欲不振や増体率の低下を生じますが、血中ヘモグロビンに変化はありませんでした。

 

犬の葉酸欠乏と貧血が関係するかどうかは、造血組織である骨髄の検査を含めたさらなる研究が必要です。

 

 

犬の葉酸要求量

葉酸欠乏の子犬に葉酸を補充した研究などから、要求量は決められています。

 

 

犬の葉酸過剰症

葉酸過剰による副作用の報告はありませんが、NRC飼養標準では要求量の1,000倍の推定安全値が提案されています。人では過剰摂取による神経障害の報告もあるため、サプリメントなどによって撮り過ぎることがないように注意しましょう。

 

 

安定性

葉酸は、熱やペットフードの加工、貯蔵過程で分解されてしまうため、ドッグフードは適切に保存、使用しましょう。

 

 

葉酸を多く含む食材

葉酸は野菜や豆類、海藻、レバーなどさまざまな食材に含まれています。

 

国内の犬の手作り食の調査では、不足することはほとんどない栄養素でした。充足に貢献していた上位の食材は、キャベツ、ブロッコリー、卵でした。

 

 

フレンチブルドッグの赤ちゃんが母乳を飲む様子

犬の病気との関係

血中の葉酸は、葉酸の過不足の指標になります。

 

腸内細菌が異常に増殖してしまうような病気では、菌による葉酸合成量が増加するため、血中の葉酸濃度の上昇が認められることがあります。

 

激しい腸炎のように腸からの吸収に問題が生じるような病気では、血中濃度が減少することがあり、この場合は飲み薬ではなく注射による葉酸の投与が必要になります。

 

人では、胎児の神経管閉塞障害の発生に葉酸が関与していることがわかっています。神経管閉鎖障害は、無脳症や二分脊椎のような神経管の異常を生じる病気です。

 

また、口唇・口蓋裂や先天性心疾患のリスクも葉酸摂取により減少することが期待されています。

 

遺伝性含め様々な要因が関与しているため、葉酸を摂取するだけで予防できるわけではありませんが、リスク軽減につながる報告が多く存在するため、葉酸の摂取が推奨されています。

 

犬でも、ボストンテリアの母犬に葉酸を与えると、その子犬の口蓋裂発生の減少した報告があります。このほか、チワワやパグ、フレンチブルドッグでも同様の研究があり、葉酸によって口唇・口蓋裂の発生が減少し、難産になる母犬も少なくなったため帝王切開の実施数も減少したと報告されています。

 

わんちゃんの口唇・口蓋裂は、短頭種で多く発生することがわかっています。また、短頭種は難産の多い犬種でもあります。報告では完全に予防できているわけではありませんが、これら疾患や難産のリスクを減らすために、母犬への葉酸の投与は一助になるかもしれません。

 

葉酸は水溶性ビタミンで過剰摂取の心配は少ないですが、サプリメントによる投与を行う場合は、専門家に相談し、与えすぎにならないようにしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

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犬の写真

獣医師清水 いと世 (京都大学博士 / 農学)

山口大学農学部医学科卒業後、動物病院にて勤務。
10年ほど獣医師として勤務した後、動物専門学校で非常勤講師を務める。
その後、以前より関心のあった栄養学を深めるために、武庫川女子大学で管理栄養士の授業を聴講後、犬猫の食事設計についてさらなる研究のため、京都大学大学院・動物栄養科学研究室を修了。
現在は、栄養管理のみの動物病院「Rペット栄養クリニック」を開業し、獣医師として犬猫の食事にかかわって仕事をしたいという思いを持ち続け、業務に当たる。

 

 

 

 

 

 

 

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