PERORIが考えるドッグフードとドッグライフ
今や、歯の健康のために良い成分としてすっかりお馴染みとなったキシリトール。虫歯予防にキシリトール入りのガムを噛んでいるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。その一方で、じゃあ、そもそもキシリトールって何? どうして歯に良いの? と改めて聞かれると、意外に答えられないものです。
キシリトールとは、キシロースという成分から合成された糖アルコールの一種で、天然の代用甘味料です。簡単に言えば、キシリトールとは「甘味料の一種」です。甘味料と言えば、砂糖が有名ですが、砂糖は口に入れると唾液によって消化され、その際に酸を生成します。そして、この酸が虫歯の原因になるとされています。
一方で、キシリトールは、口内ではなく小腸で消化されます。そのため、砂糖とは異なり、口に入れても虫歯の原因となる酸が発生しにくいという特徴をもっています。これが一般的にキシリトールが歯に良いといわれている理由でもあります。
歯に良いという言葉からは、虫歯の発生を予防するというイメージをもたれるかもしれませんが、キシリトールの場合には、虫歯の発生を防ぐというよりは、どちらかというと甘味料でありながら虫歯の原因になりにくいと捉えた方が正確かもしれません。
犬の虫歯対策にも、キシリトール入りのガムを食べさせればいいのでは?と考えてしまいます。しかし、犬にとってキシリトールはとても危険な成分なのです。
私たち人間の体にとって害のないキシリトールも、犬の体内では好ましくない働きをする場合があります。キシリトールは犬の体内でのインシュリンの分泌を強力に促進させる働きをします。なぜ、それが問題なのでしょうか。
インシュリンには血糖値を下げる作用があるため、人間の場合には糖尿病の治療薬としても使われています。適量ならば、効果的に血糖値を下げる働きをするインシュリンも、大量に分泌されると、急激な血糖値の低下をまねき、低血糖状態を引き起こします。低血糖は、軽いものならば、めまいや立ちくらみ程度で済みますが、症状が重いものでは、痙攣や嘔吐などの症状をともない、最悪の場合、命にかかわることもあります。
また、インシュリンにはグリコーゲンの合成を、促進させる効果もあります。これにより、肝臓に必要以上のグリコーゲンが貯蔵されると、肝機能障害を引き起こす危険性があります。さらに、中性脂肪の蓄積による体脂肪率の増加につながる可能性もあります。
ちなみに、犬の唾液には、口内をアルカリ性に保つ働きがあります。そのため、虫歯の原因となる酸が発生しにくいとされています。このことから、犬は、もともと虫歯になりにくい動物だというのが定説であり、虫歯対策としても、キシリトールはやはり犬には必要ありません。
キシリトールというと、人工的な甘味料のイメージがあるかもしれません。しかし、私たちに馴染みのある食材の中でも、ちょっと意外なものにキシリトールが含まれています。
たとえば、イチゴやレタスがそうです。一見すると、歯の健康などとは、無縁に思えるこれらにも、実は微量ながらキシリトールが含まれています。ということは…やはり犬にとってイチゴやレタスは食べてはいけない食材…と思いますが、イチゴやレタスは食べても特に問題ありません。
犬の体にとってキシリトールが良くないとはいえ、それは、あくまで適量を超えて摂取した場合です。野菜や果物などに、自然に含まれる程度の量であれば、体調に影響がでることは、まず考えられません。
その一方で、例えば人用に市販されているガムなど、人工的に作られたものは、犬の健康にとっての適量を超えて、キシリトールが配合されているケースが多いため、注意が必要です。
犬の場合、体重1キロあたり、キシリトールをわずか0.1グラムの摂取しただけでも、「キシリトール中毒」と呼ばれる症状を引き起こす危険性があるといわれています。例えば、コンビニなどで、一般的に販売されているキシリトール配合ガムの場合、1粒あたりおよそ0.2~1.37グラムのキシリトールが配合されています。
これは、仮に犬の体重が4キロだった場合、一粒あたりのキシリトール含有量0.5グラムのガムたった1粒を誤って飲み込んでしまっただけで、深刻な症状につながる可能性があるということです。その症状の出方には個体差があり、大量に食べても、特に体調に変化が無いワンちゃんがいる一方で、少量でも重篤な症状を引き起こすケースもあります。
犬がキシリトール中毒の症状を引き起こす原因のほとんどは、ほんの少し目を離した隙に、床に落ちていたキシリトール入りのお菓子を一粒食べてしまったなど、ちょっとした不注意によるものがほとんどです。
普段から「手の届くところにキシリトール入りのお菓子を置かない」あるいは「愛犬のいるところでキシリトール入りの食品を口にしない」などの対策を講じることで生活の中に潜む危険を未然に防ぐことができます。
社団法人埼玉県獣医師会によると、キシリトールによる中毒をおこす場合は、殆どが30分以内に症状が出始めるそうです。低血糖の症状である意識の低下、脱力、昏睡、痙攣などがおこったら、速やかに獣医師の診察を受けるようにしてください。
一昔前まで、「犬にもデンタルケアを」の合言葉のもと、日本でも犬用のガムやおやつとして、キシリトールを配合した商品が、当たり前のように売られていた時期がありました。
キシリトールによる健康への影響は、犬の体重や、食品に配合される濃度によっても変わってきますが、次第にキシリトール入りのフードを口にしたワンちゃんが中毒症状を引き起こし動物病院に運ばれるというケースが目立つようになりました。
このような事態を受けて、日本中医師会でも飼い主たちに向けて、犬に与える食品に、キシリトールが含まれていないか確認するようにと、各種メディアや各動物病院などでの啓発活動を展開し、その結果、メーカー側の自主規制も手伝って、日本でつくられる犬用の食品にキシリトールが含まれることはほとんどなくなりました。
ですが、まだ油断はできません。犬をはじめとしたペットの食品に関する規制には、世界的に統一された基準というものがなく、国によってさまざまです。外国製の製品の中には、いまだに一部キシリトールを配合したものもあります。
大切な愛犬の命をリスクから守るためにも、犬のおやつやドッグフードを選ぶ際には、必ず生産国と原料を確認する癖をつけ、安全かどうか確認してから、与えるようにしましょう。
_ 関連・おすすめ記事 _